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社会インフラシステムなどミッションクリティカル分野のモノづくりの進展をけん引するデータサイエンティストを育成するために、日立のさまざまな製造拠点でデータサイエンティストが3か月間、製造現場のDXに取り組む「モノづくり実習」。今回は、この実習に取り組んだ日立製作所のデータサイエンティストの山崎建と山崎仁に、現場で感じたモノづくりのDXの難しさ、その体験から得た学びなどについて話を聞きます。そしてこの実習を企画した日立製作所 Lumada Data Science Lab.の徳永和朗にもアドバイザーとして話を聞きました。

「【第1回】日立が育てるデジタル人財の強み」はこちら>
「【第2回】デジタル人財育成で未来への種をまく」はこちら>
「【第3回】いざ製造現場へ!日立の『モノづくり実習』とは?」はこちら>

アナログな作業をデジタル化する難しさ

——新幹線など鉄道車両の設計・製造拠点である日立の笠戸事業所の現場に3か月間入り込んで、DXに向けた課題の把握からデータ分析、さらに業務への適用まで担当しましたが、一番難しさを感じたのはどういった部分でしたか。

画像: アナログな作業をデジタル化する難しさ

山崎建
現場の作業の最適化に取り組んだ際、現場のノウハウや勘所をデジタルに落とし込むことにとても苦労しました。現場の見学やヒアリングをしに行くと、作業の手順を聞けば聞くだけ新しい実状が出てきて、情報の整理とデジタルへの落とし込みに非常に難しさを感じました。例えば、ある工程の、手順はこうで、機械はこう使って、作業者はこう動くというヒアリングの内容が、別の日や別の担当者に聞くと異なることがあります。つまり状況が変わると手順も、機械も、人の動きも変わるのです。しかも現場はナマモノですから、状況のバリエーションは無数にあります。

山崎仁
私も同じような苦労を経験しました。作業内容やどの箇所に問題が起きやすいかなどひと通り聞き、実際にデータの可視化や分析を行い、議論すると、実はここにはこういう制約があって…などの意見をもらいました。またそれを考慮したり、別の可視化や分析をして報告すると、新しい事実が分かったりと、ひたすらそれの繰り返しでした。

現場で作業する方の勘と経験による行動を、デジタルなモデルに写し取るのは、本当に根気のいる作業でした。でも、ここをおろそかにすると課題は見えてきません。

ヒアリングで現場の勘を詳らかにする

——その壁を二人はどのように乗り越えたのですか。

画像1: ヒアリングで現場の勘を詳らかにする

山崎建
データサイエンティストの先輩のアドアイスで、より深いヒアリングをするよう心がけました。つまり、それぞれの作業を担当している方に対して、今その作業は何を意識して行っているのか、複数ある機械のうち今それを選んだのはなぜなのか、など長年の経験と勘にもとづく現場担当者の行動を深掘りして聞いていきます。そして、それぞれの作業の関係性を丁寧に整理することで、徐々に作業全体の構造が俯瞰して見えてきました。

山崎仁
私も、とにかく粘り強くヒアリングを重ねました。笠戸事業所の現場を初めて見た時にアナログな作業が多くて、もっとデジタル化できるのでは、と素朴に思ってしまったのですが、今回の実習を通して、なにげない手作業にもちゃんと意味があるということがよく分かりました。そして、それをデジタルに落とし込まなければならない製造現場のDXは簡単ではないなと痛感しました。

画像2: ヒアリングで現場の勘を詳らかにする

徳永
ヒアリングで大事なことが2つあって、一つは「広く俯瞰的に聞くこと」。Aさんに話を聞いてこれが標準だと思っていると、実はAさんだけが他の人と違うやり方だった、ということがよくあります。
もう一つは、「深く本質を聞くこと」です。現場は状況に応じていわゆる勘と経験で行動を選択していますが、その判断基準までしっかり聞けるかどうかが重要です。それができれば、これは絶対厳守のルール、これはこういうケースで発動するルールと、数ある制約を優先順位付けして、モデル化することが可能になります。

本当にヒアリングは難しいのですが、今回、先輩のフォローもありつつ、彼らはしっかり実践してくれたと思います。経験を積むと、最も業務を把握しているキーパーソンは誰なのか、その人にどんなキーワードをぶつけるとより深い情報を引き出せるのか、ということがだんだん見えるようになってきて、さらに効率的にヒアリングを進められると思います。

実際の現場でないと学べないもの

——今回の実習において、最も価値のある学びは何だったと思いますか。

山崎建
データサイエンティストに必要なスキルセットととして「ビジネス力」、「データサイエンス力」、「データエンジニアリング力」の3つがあげられますが、私は、社会でのデータ活用の際にはこれらは相乗効果を持つことを実感し、バランスよく養うことの大切さを学びました。

学生の頃は、データサイエンス力に特に着目して学習を進めていましたが、今回の実習で、本質的な課題を見つけるビジネス力と、現場が分かりやすく、そして積極的に活用してもらえるよう構築するデータエンジニアリング力があって、はじめてデータサイエンス力が意味を持ち、価値創出につながるということが身に沁みました。

課題設定が甘いと問題の根本を絶つことができず、再び同じ課題が出てきますし、分析結果が正しくても、例えばダッシュボードの設計が悪いと現場には浸透しません。課題設定とデータの見せ方について、笠戸事業所の現場の方と対話を重ねた経験は本当に得難いものでした。

山崎仁
私の場合は、課題を設定することの難しさとその大切さでしょうか。もともと課題の設定が難しいことはわかっていたのですが、やはり実際の現場は想像以上でした。先程お話ししたような課題を見つけるためのヒアリングのやり方は机上の学習では学べませんでしたし、紙のデータの束と格闘することもありませんでした。何より、現場に隠れた課題を核心まで突き詰めないと現場の改善にはつながらないという厳しさを、笠戸事業所の皆さんから学びました。

いま生成AIなどの技術がどんどん進化していて、ある程度の分析は簡単にできるようになってきています。でも分析の大もとになる精度の高い課題の設定がなければ、生成AIを使った分析もあまり意味をなさないと思います。これから技術が進めば進むほど課題設定のような、上流のビジネス的スキルの重要性はいっそう高まり、データサイエンティストとして生きていく上で、より求められると思います。

画像: 実習の様子

実習の様子

日立のDNAを受け継ぐデータサイエンティストへ

徳永
どれだけ多くの分析手法を知っているか、予測精度を高められるかなどがデータサイエンティストの能力とされがちですが、実際には、どれだけ現場に価値を提供できるかで決まります。

価値を提供するためには、現場の本質的な課題を見極め、それに基づいた分析結果を現場が腑に落ちるように見せることが重要で、分析手法の古い、新しいは関係ありません。今回のモノづくり実習で、笠戸事業所の方の指導のもと、彼らがそれを実感してくれたことはとてもありがたいですね。

日立には、今回の実習でテーマとなった鉄道車両やさまざまな制御装置などミッションクリティカル分野のモノづくりのノウハウが蓄積され、DNAのように受け継がれています。どうすれば品質が上がるか、どうすれば効率化できるか、など課題を投げれば、答えを持っている人が必ずどこかにいます。日立のデータサイエンティストにとってその財産を共有できることはかけがえのない価値だと思いますし、データサイエンティストにとってはこのモノづくり実習が、その輪の中に入るはじめの一歩になるわけです。

——次回、実習における笠戸事業所の指導員に、データサイエンティストとの現場改善はどうだったか、深堀りしたいと思います。

「【第5回】モノづくりの現場が見たデータサイエンティストの存在とは?」はこちら>

画像1: データサイエンティスト
【第4回】「モノづくり実習」でしか得られないスキルとは?

徳永 和朗(とくなが かずあき)

株式会社 日立製作所Lumada Data Science Lab.
デジタル事業開発統括本部 Data&Design 担当部長

日立製作所に入社後、半導体のプロセス技術者としてLSI(大規模集積回路)の技術開発や量産など、日立の次世代モノづくりに携わる。2013年からはAIやビッグデータを活用したデータサイエンス領域を担当。製造業、IoT、マーケティング分野のデータ分析やプロジェクトマネジメント、人財育成の経験を有するデータサイエンティストとして活躍した後に、2020年4月にLumada Data Science Lab.立ち上げに従事。

画像2: データサイエンティスト
【第4回】「モノづくり実習」でしか得られないスキルとは?

山崎 建(やまざき たける)

株式会社 日立製作所 デジタル事業開発統括本部 Data&Design

2023年4月、日立製作所に入社。大学では、工学分野にて「意思決定支援のための個人特性と外的要因を含む確率モデルの評価」のテーマを研究。入社後は、公共分野のデータによる施策評価やデータ利活用コンサルティングの案件に従事した後、現在は産業分野の加工計画最適化、公共分野の全国状況可視化・将来予測、鉄道分野の生成AI活用などの案件に携わる。

画像3: データサイエンティスト
【第4回】「モノづくり実習」でしか得られないスキルとは?

山崎 仁(やまざき ひとし)

株式会社 日立製作所 デジタル事業開発統括本部 Data&Design

2023年4月、日立製作所に入社。大学、大学院では、「深層学習を用いたマルチモーダルな感情分析」、「三次元点群とRadiomics特徴量を用いた脳腫瘍患者術後生存期間予測」の自然言語処理や画像系のテーマを研究。入社後は、データサイエンティスト実践研修などを経て、公共・金融分野の生成AI案件、公共分野の自然言語処理案件などに従事。

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