Hitachi
お問い合わせお問い合わせ
列車の運行を遅延・運休させる輸送障害では、一刻も早い運転再開に向けた適切な初動対応が求められます。東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)が日立との共同実証を経て実用化したAIによる鉄道設備の復旧対応支援システムは、指令員による障害原因の特定や現場への指示といった初期対応の効率化を支援。社会を支える鉄道インフラの安定的な運行に貢献しています。

指令員の経験値に依存していた輸送障害の復旧対応

2023年3月、JR東日本では山手線などの首都圏在来線において、鉄道設備の輸送障害発生時に指令員による迅速な障害原因特定や復旧指示を促す東京総合指令室初動リコメンデーションシステム(以下、「信通指令初動リコメンデーション」)の運用を開始しました。これに先立つ2020年3月からJR東日本は日立と共同で同システムのPoCを実施。2年間にわたる綿密な検証の結果、その高い有用性を確認しています。

本システムが導入されたのは、複雑で過密な首都圏1都7県の鉄道運行を監視・指揮するJR東日本の東京総合指令室。ここには踏切や転てつ機(ポイント)といった信号設備を担当する部門があり、この信号設備に分類される、特定区間の列車位置を検知・特定する「軌道回路」を対象に本システムは適用されました。

画像1: 東日本旅客鉄道株式会社「信通指令初動リコメンデーション」実用化
第1回 AI技術とデータ資産のシナジーで迅速な障害復旧を支援

東日本旅客鉄道株式会社
東京信号通信設備技術センター
企画・人財育成グループ グループリーダー
池亀 純也 氏

「ベテラン指令員が定年退職で減っていくなか、経験や知識の浅い若手指令員では輸送障害時に適切に対応するための時間を要してしまうことがあります。その対策としてこれまでさまざまな試みを重ねてきましたが、特殊な設備の場合は指令員間で知見を共有して一般化するのが難しく、復旧対応に時間がかかっていました」と従来の業務課題を説明するのは、指令の現場を長年担ってきたJR東日本の池亀 純也氏です。なかでも困難だったのは発生頻度の低いレアケースで、熟練の指令員でも判断や対応に苦慮していたと言います。

約10年分の故障情報を蓄積したデータ資産の価値

輸送障害対応に関するこうした従来課題の解決に向けた本プロジェクトの起点は、かつて日立がJR東日本に提案したあるサービスでした。それは、過去の故障記録から日立独自のAI技術によって適切な修理箇所を提案するサービスで、これによりJR東日本において増大する鉄道設備の維持管理コストを削減しようという提案でした。

画像2: 東日本旅客鉄道株式会社「信通指令初動リコメンデーション」実用化
第1回 AI技術とデータ資産のシナジーで迅速な障害復旧を支援

東日本旅客鉄道株式会社
イノベーション戦略本部(出向)
副長
渡邉 信太 氏

「データ活用で業務変革を推進していく立場にあった私にとって、その提案はとても興味深いものでした。そして詳しく話を聞いていくうちに、このサービスを輸送障害時の指令業務にも応用できるのではないかと考えたのです」と日立の提案を振り返るのは、当時JR東日本に所属し、現在はグループ会社に出向中の渡邉 信太氏です。さらに、システム開発者としてPoCに参加したJR東日本の高野 友佑氏は「輸送障害が起こると指令室はとにかく慌ただしくなります。その大変さを知っているからこそ、ITの力で少しでも現場の指令員を支えたい、という思いをずっと抱いていました」と、よく知る指令業務を効果的にサポートできるAIの可能性に注目したと言います。

一方、この日立からの提案とは別に、JR東日本では2018年ごろから設備故障の情報を収集した「信通指令故障情報データベースシステム」を構築していました。経験値に個人差のある指令員間でデータベース情報を共有することで、個々の指令員の経験や知識に依存することなく、輸送障害時の速やかな原因究明や復旧指示を支援できると考えたのです。

池亀氏は「それまでは過去の事象を記録、データベース化する程度でしたが、日立からの提案を聞いて、このデータベースを設備故障の原因究明に役立てられるのではないかと考えました」と日立のAI技術とJR東日本のデータ資産とのシナジーによる新たな価値創出に期待を寄せたと言います。こうしてその後、JR東日本では信通指令初動リコメンデーションの検討が始まりました。

現場の事情を最優先に考えたシステムを――

そして約10年分の数千件に及ぶ故障情報データの評価が完了した2020年3月、JR東日本と日立による信通指令初動リコメンデーションのPoCがスタート。PoCの対象として軌道回路を選定したのは、その故障が列車の運転ができなくなるという大きな輸送障害を引き起こす主因となるためです。

このPoCの実施に関して、JR東日本には“譲れない一線”がありました。「輸送障害が発生するとただでさえ指令の現場は慌ただしくなりますから、新たなシステムを動かすために指令員の仕事を増やすことだけは避けねばなりません」と渡邉氏が言うように、現場の協力を得るには追加的な負担をかけないことが絶対条件だったのです。

画像3: 東日本旅客鉄道株式会社「信通指令初動リコメンデーション」実用化
第1回 AI技術とデータ資産のシナジーで迅速な障害復旧を支援

東日本旅客鉄道株式会社
長野支社 鉄道事業部 設備ユニット
副長(チーフ)
高野 友佑 氏

そこで着目したのが、障害対応における従来のオペレーションでした。輸送障害が発生すると指令員は発生事象に関する情報を時系列で記録しています。この手順をそのまま復旧対応支援システムへのデータ入力工程と兼ねることで、指令員に追加的な負担をかけずに済むように日立はシステムを検討したのです。これについて高野氏は、「現場の指令員からは『新システムのためだけに作業を増やすことはしたくない』と、くぎを刺されていたのですが、追加作業が不要となり安堵(あんど)しました。ただ、従来業務の入力データを新システムでも使うには当社の厳格なセキュリティ要件をクリアしなければならず、そこは日立さんも苦労されたようです」と、プロジェクト推進上の最重要課題を乗り越えたエピソードを回想します。

「第2回 豊富な経験と熟練の勘を学んだ“AI指令長”の誕生」はこちら>

東日本旅客鉄道株式会社

[所在地] 東京都渋谷区代々木二丁目2番2号
[設 立] 1987年4月1日
[資本金] 2,000億円
[従業員数] 46,051人(単体/2023年4月1日現在)
[事業内容] 1987年の国鉄分割・民営化により発足した東日本を中心に旅客鉄道などを運営する鉄道事業者。JRグループの旅客鉄道会社のひとつで、旅客鉄道事業をはじめ、貨物鉄道事業、旅客自動車運送事業、流通、不動産事業など多岐にわたる事業を展開している。

東日本旅客鉄道株式会社のWebサイトへ

他社登録商標
本記事に記載の会社名、商品名、製品名は、それぞれの会社の商標または登録商標です。

お問い合わせ先

株式会社 日立製作所 社会システム事業部

お問い合わせは、こちらから

This article is a sponsored article by
''.