「第1回 社内文書という“リアルデータ”と生成AIの新結合」はこちら>
対話形式で過去のヒヤリハット事例を検索・提供
2023年12月、名鉄による「社内報・社史情報検索」に続いて、メイテツコムの生成AI活用ユースケース「ヒヤリハット履歴情報検索」の技術検証がスタート。このサービスは生成AIが交通サービスにおける過去のヒヤリハット事例を検索・提供することで、効率的な突発事象対策の検討・立案などを支援するものです。
株式会社メイテツコム
事業統括本部 デジタル戦略室
デジタル戦略担当
課⾧
伊藤 誠 氏
メイテツコムでは約10年前から鉄道運行に関するヒヤリハット事例を格納したデータベースを構築しており、自社製品などを通じてすでに名鉄グループや外部ユーザーに向けた情報提供サービスも展開しています。今回の技術検証では、データベースに蓄積された約13万件ものデータを統合。生成AIを活用することでユーザーからの問い合わせに対して過去の事例を抽出し、文章で回答する機能を付加しました。
「あるヒヤリハット事象の過去の近似事例をAIで判定・提供するという機能は以前から実装していたのですが、今回の技術検証はこれに生成AIを組み込むことでどのようなことが可能になるのかを探る試みでした」と説明するのは、本ユースケースを担当したメイテツコムの伊藤 誠氏です。
回答精度を高めたプロンプトエンジニアリングの妙
本ユースケースでは、ユーザーが入力した質問文を生成AIの内部で言いかえるプロンプトエンジニアリングを施すことで回答精度向上を追求。伊藤氏は「今回採用したのは、大規模言語モデルによるテキスト生成に、知識データベースを検索して得た情報を組み合わせるRAG※という技術です。しかしRAGだとどうしても“ふわっとした”聞き方に弱くなります。回答精度を高めるための試行錯誤を通じて、“AIのクセ”に関する知見を獲得できたのは1つの収穫でした」と振り返ります。
株式会社日立製作所
Data&Design Data Studio
主任技師
松本 晃
これに関連して日立の松本は「本ユースケースでは、ユーザーが入力したプロンプトから、ヒヤリハット事例を検索するプロンプトと生成AIに指示するプロンプトを再構築するリフレーズという手法を適用しました」と、回答精度を改善させたアプローチについて解説します。
なお、本実証ではユーザーとの対話形式によるヒヤリハット履歴情報の検索・提供に加え、生成AIの文章生成機能でヒヤリハット事象に対する注意喚起のメッセージ生成も試行。駅員など現場の管理者にタイムリーに掲示する仕組みづくりも検討し、実装に向けて確かな手応えが得られました。また、本ユースケースと先行する名鉄のユースケース共通の仕様として、生成AIが提供した情報にその引用元を付与するように設定。エビデンスを提示することで円滑なファクトチェックを可能にしています。
※ Retrieval-Augmented Generation
生成AIのさらなる進化と並走しながら――
名古屋鉄道株式会社
デジタル推進部
グループDX 担当課⾧
西村 慎吾 氏
今回の2つの技術検証に続き、現在名鉄グループでは他の生成AI活用ユースケースも技術検証が進行中です。「1つは株主総会の質疑応答において想定される株主さまからの質問と、その回答案を生成AIで作成するユースケースです。これも日立さんに協力いただいています」と名鉄・西村氏。その他のケースについても今後検証を進め、ニーズを見極めながらグループ内への展開も検討していきたいと言います。一方、メイテツコムの伊藤氏は「現在当社で提供している、いわば“電子計算システムとしてのソリューション”に生成AIを組み合わせて、サービスを新たな領域に広げていくことが次なるビジョンです」と生成AIの可能性をさらに追求していくこれからを見据えます。
株式会社日立製作所
Data&Design Data Studio
片渕 凌也
両社の検証に伴走した日立の片渕は、「こうすればOKという汎用的な方法論が存在せず、ユースケースとデータに照らして一つひとつ適切な手法を積み重ねていく必要があったため、今回の2つの技術検証は時に困難をともないました。しかしだからこそ、より実践的な知見が得られたのだと思っています」と、チャレンジングであった分、収穫も大きかったとプロジェクトを振り返ります。
またこれを受けて、「このレベルまで実務における生成AIの可能性を深掘りされるお客さまは初めてでしたし、生のデータとユースケースに触れられたことは私たちにとっても大きな経験値になりました」と松本。逐次アップデートされる新しい技術をキャッチアップしながら、その知見をプロジェクトに活用していく基本スタンスを貫徹できたことに大きな価値があった、と今回の技術検証の意義を強調します。
プロジェクトパートナーである日立との今後に関して、「加速度的に重要性を増す生成AIについて、これからも知識・技術面でサポートしてもらえたら――」とメイテツコムの伊藤氏。さらに名鉄・西村氏は「技術進化の速い生成AIが生みだす新たな価値のタイムリーな提案に期待しています」とエールを送ります。
こうした期待に応えるべく、今も日立では生成AIの高度な知見を日々更新中です。そして今後もGenerative AIセンターを中心に実践的なユースケースを積み重ねながら、お客さまとともにまだ進化の途上にある生成AIの未知の可能性を追求していきます。
名古屋鉄道株式会社
[所在地] 愛知県名古屋市中村区名駅一丁目2番4号
[設 立] 1921年6月13日(創業:1894年6月25日)
[資本金] 1,101億58百万円(2023年3月末現在)
[従業員数] 4,987名(2023年3月末現在)
[事業内容] 豊橋駅と名鉄岐阜駅を結ぶ名古屋本線を中心に、愛知県と岐阜県において鉄軌道事業などを展開。交通、運送、流通、不動産、レジャー、サービスなど多岐にわたる事業を展開する名鉄グループ(計130社)の中核企業。
株式会社メイテツコム
[所在地] 愛知県名古屋市中村区名駅南一丁目21番12号 名鉄協商コンピュータビル
[設 立] 1976年9月27日
[資本金] 1億円
[従業員数] 385名
[事業内容] 名鉄グループの情報システム会社。IT化戦略立案コンサルティング、業種別ソリューションの提案およびシステム開発・運用、ASPサービス、パッケージソフトの開発・販売など。
他社登録商標
本記事に記載の会社名、商品名、製品名は、それぞれの会社の商標または登録商標です。