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日立の環境への取り組みは、カーボンニュートラルをはじめとする脱炭素化だけではありません。主にストレージ製品の製造を担う神奈川事業所では、「資源循環型社会」の実現をめざして、製品製造やそのライフサイクルにおける省資源・再資源化の取り組みが進んでいます。ここでは、製品への再生材利用や製品回収、部品リユースなど、製品事業活動にサーキュラーエコノミーを実装するための意欲的なアプローチを紹介します。

「第1回:“モノづくり”の脱炭素化をリードするITプラットフォームの主力工場」はこちら>
「第2回:豊富な経験知が支える、LCA×製品単位の精緻なCO₂排出量算出・可視化実証」はこちら>
「第3回:脱炭素化の次元を変える、飽くなき探求と精緻な実証の結実」はこちら>
「第4回:さらなる省電力化に挑む環境配慮型ストレージ」はこちら>

「直線型経済」から「循環型経済」への移行をめざして

日立の環境長期目標「日立環境イノベーション2050」では、バリューチェーンを通じたカーボンニュートラルなどによる「脱炭素社会」、そして、自然資本へのインパクト最小化で生態系の保全を図る「自然共生社会」とともに、省資源や再資源化による「高度循環社会」の実現をめざしています。その具体的な目標として、日立グループ内の水・資源利用効率を2050年度までに対2010年度比で50%改善することを掲げました。

高度循環社会の実現に向けた取り組みの一環として、神奈川事業所が現在推進しているのが、従来の「リニアエコノミー(直線型経済)」から「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」への移行です。資源の採取から生産、消費、廃棄までが直線的に進み、大量生産、大量消費、大量廃棄を前提とする経済モデルを、さまざまな工程で資源を効率的・循環的に利用する新たな仕組みに転換するために、神奈川事業所では、「製品設計」「流通過程」「循環過程」の3領域における変革に取り組んでいます。

製品設計における変革:再生材利用

画像1: 神奈川事業所の環境活動
第5回 サーキュラーエコノミーへの序章

株式会社 日立製作所
ITプロダクツ統括本部
ハードウェア開発本部
プロダクツ第1設計部
主任技師
宮本 憲一

まず、原材料調達から始まるストレージ製品の環境配慮設計の取り組みです。日立ストレージは初の試みとして、製品の筐体(きょうたい)前面に装着するベゼルに再生プラスチックを採用します。

従来の再生プラスチックは製造過程で種々のきょう雑物が混入することや、繰り返し熱加工されることで性能が劣化し、データセンターでの長期利用を前提に製造されるストレージ製品に求められる耐久性や難燃性、成形精度といった性能を担保できないという課題がありました。これを解決したのが、帝人株式会社が新たに開発した再生プラスチック素材です。ベゼルへの採用にあたっては、同社と日立の研究開発部門が連携し、約2年間かけて厳格にその性能を評価・検証しました※1。

※1 安全基準の厳しい企業・官公庁向けデータ記憶装置製品に再生プラスチックを採用

「ベゼルに使う再生プラスチックには、エンタープライズ製品向け素材として製造から10年後も寸法や強度がほぼ変わらない、という耐久性が要求されます。そこで経年劣化評価では数値上だけでなく、プラスチックを実際にテスト成形して熱加速試験で10年後の状態を作り出し、強度や耐衝撃性などを精査しました。さらにシミュレーションによって成形精度を推定する流動性評価を経て、ようやく採用にこぎ着けました」と振り返るのは、ハードウェア開発本部 プロダクツ第1設計部 主任技師の宮本 憲一です。

今後はドライブキャニスターというHDDやSSDの枠組みへの再生プラスチックの採用を検討しているほか、石油由来の現行材に代えて、トウモロコシや卵の殻など動植物由来のバイオマス素材を再生プラスチックと混交する手法も検討中です。こうした試行錯誤を重ねながら、日立では2030年度までにストレージ製品における環境配慮材使用率を50%まで引き上げていくことを目標にしています。

流通過程における変革:IT機器回収サービス

画像2: 神奈川事業所の環境活動
第5回 サーキュラーエコノミーへの序章

株式会社 日立製作所
経営戦略統括本部
環境戦略本部
製品回収サービスセンタ
主任技師
柳澤 彰

廃棄物処理業に関する特例制度である環境省の「広域認定制度」を活用して、日立は全国のパートナー企業と協力し、サーバーやストレージなどのIT機器の回収サービスを2014年度に開始。現在、全国各地で多くのお客さまに利用されています。

環境戦略本部 製品回収サービスセンタ 主任技師の柳澤 彰は、「これは当初神奈川事業所で始めたサービスを、日立として資源循環を本格的に推進していこうと全社展開したものです。環境省の広域認定制度を利用することで、それまで自ら産廃事業者を探して委託していたユーザーの負担を減らし、産廃処理の全工程に日立がワンストップ対応するため、お客さまからも大変好評です」とサービスの特長を説明します。

特に慎重に取り扱う必要のあるHDDなどの記録媒体をはじめ、回収する製品の個数管理を徹底。紛失しないように、受け取りから輸送、処理までの記録を確実に残しながら、報告書を作成・提出します。また、万一の情報漏えいを心配するお客さまの前で物理的にディスクを破壊するサービスもオプションで用意しています。今後はストレージを中心にその他の製品回収やそれにともなう部品リユースも増やしていく方針です。

サーキュラーエコノミーは日立だけでなく、お客さまと一体となって取り組むべきテーマであり、お客さまの理解と協力が不可欠です。さらなる回収率向上へ向けて、日立では今後もお客さまにその意義と重要性を訴えていきたいと考えています。

循環プロセスにおける変革:サステナブル保守

画像3: 神奈川事業所の環境活動
第5回 サーキュラーエコノミーへの序章

株式会社 日立製作所
ITプロダクツ統括本部
ソリューションストラテジー本部
プロダクツソリューション第2戦略部
ストレージ企画G
技師
佐伯 努

コロナ禍による先行き不透明な景況のなかで、設備投資を抑制した企業は少なくありません。さらに人の動きが制限されたことも相まって、人手を要するITシステムのリプレースを控え、既存の製品を継続利用するケースが増加しました。モノを長く使い続けること自体は環境負荷を低減しますが、一方で長期間ハードウェアを使い続けるには適切な保守作業が不可欠です。そしてこうした継続保守ニーズの増加や急激な市場変化は、保守部品不足というリスクを顕在化させます。

そこで日立は前述のIT機器回収サービスに着目し、回収したハードウェアから良質な構造部品や長寿命設計部品を取り出して、再整備・検査・調整のうえで品質を確保し、保守部品として循環利用するプロセスを整備しました。この取り組みは部品の寿命を最大限に生かしたサステナブルな保守を実現するとともに、保守部品の需給がひっ迫した場合でもその継続的な供給を支え、安定的に機器を使用できる安心をお客さまにお届けします。なお、HDDなどの記録媒体については回収した全品を物理的に破壊するため、循環利用の対象外です。

「日立製品のユーザーの多くが、室温や湿度などの良好な環境で製品をご使用くださっており、良質なパーツを回収できることは分かっていました。また、循環利用する場合でも素材にまで分解して再生すると、それだけCO₂の排出量も増えてしまいますが、部品としてそのまま循環利用する期間を挟み込むことで環境負荷を軽減できるのです」と、ソリューションストラテジー本部 プロダクツソリューション第2戦略部 技師の佐伯 努は、その優位性に言及します。

さらなる省資源・再資源化で高度循環社会の実現を

サーキュラーエコノミーへの移行に向けて、今後は現在の取り組みをさらに加速させていく方針です。めざすのは、新たな技術で新たな可能性を開拓し、省資源・再資源化の取り組みを事業につなげていくこと。緒に就いたばかりのさまざまな試みを着実に前進させながら、これからも日立は社会やお客さまとともに高度循環社会の実現を追求していきます。

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