国保ヘルスアップ支援事業に向けた糖尿病関連ソリューション
厚生労働省の「国保ヘルスアップ支援事業」は、国民健康保険被保険者の健康保持増進や疾病予防、QoL向上などに資する都道府県や市町村の取り組みを支援する交付金事業です。国保データベース(KDB:Kokuho Data Base)などの被保険者の医療情報や健診情報を活用し、支援・評価委員会の助言・評価を受けながら、データ分析に基づくPDCAサイクルに沿った効率的・効果的な保健事業を推進しています。
2018年に始まった国保ヘルスアップ支援事業に向けて、日立では計11の関連ソリューションを提案。そのなかには「糖尿病治療中断に関する要因分析・勧奨」「AI技術を活用した糖尿病等の疾病リスク算定および介入対象者抽出ツール」「『糖尿病重症化予防プログラム強化』における効果分析」という糖尿病に関するソリューションが3つ含まれています。
このうち「糖尿病治療中断に関する要因分析・勧奨」は、糖尿病患者さんが治療を中断した要因の分析を通じて治療継続を支援し、重症化の抑制をめざすソリューションです。治療中断の有無とその期間、さらに、治療中断前後の糖尿病や合併症の重症化の状況などを調査・分析します。
糖尿病のさまざまなリスクと重症化予防の重要性
このソリューションの開発にあたり、分析におけるさまざまな前提事項の設定などに関して日立が協力と助言を求めたのが、糖尿病臨床研究・疫学研究の第一人者である国際医療福祉大学市川病院教授の野田 光彦氏でした。野田氏は「糖尿病受診中断対策マニュアル」や「糖尿病標準診療マニュアル」の作成を主導し、2009年には厚生労働省による糖尿病予防のための戦略研究のひとつである「J-DOIT2※1」の研究リーダーも務めています。
糖尿病はインスリンというホルモンの不足や作用低下によって高血糖が慢性的に続く疾患です。日本の20歳以上のうち、糖尿病が強く疑われる人の割合は男性19.7%、女性10.8%であり※2、国民の5~6人に1人がそのリスクに直面していることから、久しく“国民病”と言われてきました。主に自己免疫学的機序を要因とし、生活習慣にかかわらず発症する1型と、遺伝的要因に不適切な生活習慣が重なって多くが中高年期に発症する2型、その他に大別され、高血糖状態が継続することで網膜症や腎症、神経障害といった合併症を起こすほか、心疾患や脳卒中などのリスクを高めることも明らかになっています。
厳密な意味で糖尿病が完治することはありませんが、全体の95%以上を占める2型の場合、生活習慣を改善することで良い状態を維持していくことが可能です。糖尿病治療に長年携わってきた野田氏も「失明や足の切断、人工透析といった深刻な結果を招くケースもありますが、医療機関で定期的な診察を受け、医師の指導のもとで服薬や自己管理を徹底すれば、糖尿病は十分にコントロールできる病気です」と適切な治療やセルフケアの重要性を訴えます。
※1 The Japan Diabetes Outcome Intervention Trial 2(かかりつけ医による2型糖尿病診療を支援するシステムの有効性に関する研究)
※2 厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査」より
重症化予防に立ちはだかる治療中断という課題
病気の進行を食い止める、あるいは遅らせる重症化予防こそ、糖尿病治療の要諦です。しかし現実には、さまざまな理由で糖尿病の治療を中断してしまう患者さんも少なくありません。J-DOIT2などを通じて治療中断の要因分析に取り組んできた野田氏は、その主な理由は3つあると言います。
「まず、特に自覚症状がなく、別に悪いところがないと考えて治療を中断してしまう自覚の欠如です。次に仕事や学業が忙しいという時間的な制約。そして3つ目が診療にお金がかかるから、という経済的な理由になります」
しかしこうした理由から治療を中断したまま長期間放置すれば、血糖値が大きく上昇し、合併症のリスクが高じるのは避けられません。これについて野田氏は、「事実、糖尿病から人工透析や失明などに至る人々の一定数は、治療中断歴のある患者さんたちです」とその影響の深刻さを指摘します。
治療中断の防止に向けた国保ヘルスアップ支援事業に参画
ひとたび糖尿病の治療を中断しても、医師の指導のもとで早期に治療を再開すれば重症化を防ぐことは可能です。しかし一医療機関の視点からは、ある患者さんが治療を中断したままなのか、あるいは別の医療機関で治療を再開しているのか、といった中断後の追跡調査は難しいのが実情でした。
2022年、こうした背景を踏まえ、日立はより広域的・包括的な視点から糖尿病治療中断の抑制・防止をめざす長野県の国保ヘルスアップ支援事業「市町村国保糖尿病治療中断者支援事業」に参画。「糖尿病治療中断に関する要因分析・勧奨」ソリューションを活用し、野田氏の協力・助言のもと、治療中断の状況や中断の影響などに関する実態把握の取り組みを長野県とともに推進しました。
「第2回 データ活用による糖尿病治療中断の要因分析」はこちら>
医学博士 野田 光彦 氏
国際医療福祉大学市川病院 教授
糖尿病・代謝・内分泌内科
1978年3月、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。1984年3月、東京大学医学部医学科卒業。1989年11月、自治医科大学助手。1995年4月、アメリカコーネル大学Visiting Professor。2000年6月、東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科助手。2001年4月、朝日生命糖尿病研究所主任研究員。2004年1月、虎の門病院内分泌代謝科部長。2005年8月、国立国際医療研究センター部長。2015年11月、埼玉医科大学内分泌・糖尿病内科教授。2019年4月、国際医療福祉大学市川病院教授。2020年10月、日本体質医学会賞受賞。
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