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日立の勘定系システムと開発メンバーのDNA
―― 現在の勘定系の人材育成について、どのように考えていますか?
山田
さまざまな課題はありますが、総じて日立ではきちんと人材育成ができていると思います。机上の教育だけでは限界があって、これまでの開発を通じてよい経験ができて身につきました。初期開発から経験を積んだメンバーがコアな部分を押さえているからこそ、技術継承や人材育成が図れ、次の展開や事業の継続につながると考えています。
トラブルの経験や重要なプロジェクトへの参加がすべてではなく、ナレッジ共有も重要です。しかし、私自身はトラブルが起きやすいところで経験を重ねてシステムへの理解や中身を押さえてきました。
―― 勘定系での人材育成の環境の変化は感じていますか?
佐々木
人材育成の面では、いまは全く障害を出してはいけないので、現場での経験ができなくなりました。障害を出さないようにしっかりやればすごく人が育つだろう、と思われるかもしれません。しかし、どこかである種の修羅場を経験しないと、なかなか人が育ちにくいと感じています。メンバーには苦労もさせましたけど、さまざまな経験を積んだメンバーがいるのは大きいです。
また、システムの一部だけしか知らなければ、全体を俯瞰して見ることはできません。システム全体、プロジェクト全体を見る人間の育成には時間がかかりますが、経験できる機会が限られるので、今後の育成は難しくなると思います。
山田
全体を見るエキスパートは必要ですが、まさにマネジメントの人材かもしれませんね。実務でいえば、テスト推進ではシステムのすべてを押さえる必要がありますが、実務を通じて障害も含めたさまざまな経験を積む環境は少なくなったかもしれません。
―― とても悩ましい状況ですが、勘定系の人材育成では今後何をすればよいのでしょうか?
佐々木
式年遷宮(一定周期で神社の新社殿を作り御神体をうつすこと)ではありませんが、人材育成の面でも基盤を替える必要があると思います。今後、AWSでパブリッククラウド化を進めますが、メインフレームからオープンへの移行と同様に大きな技術転換で、人への技術伝承も考える必要があります。
ドキュメントを読むだけで技術を身につけられる人は100人に1人いればよく、今後も経験を積む機会を与えるべきだと思います。お客さまにとっても日立にとってもトラブルがないのが一番ですが、トラブルの手前でさまざまな経験をすることも大切です。
山田
「2025年の崖」という問題がありますが、最終的には人の育成の問題になります。メインフレームや古い技術を知る技術者が減り、新しい技術に替えるなかで若手を育てなければなりません。静岡銀行さまは技術の刷新を通じてこれらの問題を克服されており、私たちも苦労はしたものの人材育成や世代交代、技術継承ができたと思います。
―― 「2025年の崖」について、どのように考えていますか?
山田
静岡銀行さまは、将来的な経営リスクとして「2025年の崖」問題を認識されたうえで、次世代システムのめざすべき姿をご検討され、その要件にマッチしたパートナーとして日立を選んでいただきました。静岡銀行さまの実績として、開発生産性の向上や開発・プロマネ人材の育成にもつながるなど、高い導入効果を得られているということで、静岡銀行さまと日立が一丸となり「2025年の崖」問題を乗り越え、OpenStageとそれを支える人材として形になったと思います。
佐々木
銀行さんでは、古い業務プログラムの必要性が分からない場合もあります。それが全体の更改になればテストして検証するため、プログラムの意味が分かり手の内に入ります。メインフレームをキーワードに「2025年の崖」と呼ばれるかもしれませんが、プログラム全般でも同じです。知るべきことは分かる状態にしておかなければ、また同じことが起きて、ひょっとするとアプリケーションの中身が分からないためにシステム更改ができなくなるかもしれません。
ですから勘定系では、中身を分かるようにするのが崖を乗り越えることだと思います。銀行さんには非常に多くの伝票や帳票がありますが、昔からある帳票を何に利用するのか、その理由を誰も知らない場合があります。これらがさまざまな所で出てくるので日本的な積み上げのよくない面があるかもしれません。アメリカではシステムが使えなくなると捨ててしまうと聞きましたが、日本でも今後はそうしないといけないのでしょうね。
勘定系の近未来と日立が担保すべき信頼性とは
―― AWSによるパブリッククラウド化について、いつごろから考え始めましたか?
山田
静岡銀行さまのOpenStageの稼働後です。オープン基盤のレイヤーは3スキーム共通なので、次はどこに乗せようかと考えました。静岡銀行さまとは次の段階としてAWSでパブリッククラウド化をめざしています。社内では勘定系がAWS上できちんと動くかどうかの検証を進めているところで、信頼性や性能といった非機能の観点から保守サポートレベルまでのすべてをこれまでの日立の基準でシビアに見極めたいです。
―― 日立の勘定系で考える信頼性はどのようなものでしょうか?
佐々木
信頼性は、日立が信用を得るための一番の基礎です。ハードでいえば故障率の低さで、さまざまな部品の供給もあり信頼性を保つことも簡単ではなくなりましたが、全体として日立が責任を持つべきだと私はずっと思っています。ソフトでも他社品を使いつつも、お客さまに聞かれたら責任を持って答えることで、これまでと同様に安心していただけるのではと考えています。サーバーが故障して「ほかの会社では調べないのに、日立はここまで調べてくれた」という話は何度か伺いましたが、製品工場も含めて日立は「The真面目」というところがありますね。
山田
日立ではよく「1人称で」「当事者意識で」といいますが、SIerとしてお客さまと向き合い最後までやりきるマインドは間違いなくあり、それが信用につながる面はあると思います。他社品が入り基盤をAWSにすればハードルが高くなりますが、最終的にご迷惑を掛けてしまうのはお客さまなので、私たちができる範囲を見極めてきちんとご説明することも責務と考えています。こうした信頼性の話は脈々と継承されて、共有されています。
―― 最後にお二人から後進のみなさんへのメッセージをお願いします。
佐々木
何事にも興味を持ってほしいです。さまざまなことに興味を持ち、できる仕事を増やして楽しく仕事をしてもらいたいです。プロジェクト事情が厳しく、つらいこともあるかもしれませんが、幅広く興味を持つことが成長につながると思います。
山田
やりがいがなければモチベーションやチームの一体感も出てこないので、やりがいを見つけることが大切です。こうした動機付けも私の仕事だと思いますし、クラウド化の話もきっかけになります。オープン基盤では佐々木さんがきっかけを作ってくださったので、次は私の使命だと考えています。
―― 取材を通じて、「お客さまからの信頼とは何か」を常に問い続け、「信頼性のために対応し続ける」という信念が両者の言葉の端々から伝わってきました。環境の変化を恐れない前向きさと技術への好奇心、芯のある技術を柔軟に適応させようという日立の勘定系エンジニアのDNA。その継承の証としての新たなソリューションが具現化される日もそう遠くないかもしれません。
佐々木典将(ささき・のりまさ)
株式会社日立製作所 金融第一システム事業部 シニアエキスパート
1986年に入社後、大森ソフトウェア工場・金融システム部員として勘定系システム開発を担当。2002年からは金融システム事業部でNEXTCAPソリューション本部本部長など含む地域金融機関向けの勘定系システム開発の取りまとめに従事。2023年より現職。本ソリューションの原点である「EXPERT」から現在の3スキームに至るまで日立地銀勘定系事業に従事しており、日立の『ミスター勘定系』ともいえる、過去も現在も未来も語ることができる貴重な人材である。
山田勇一(やまだ・ゆういち)
株式会社日立製作所 金融第一システム事業部 金融ソリューション本部担当本部長
2001年に入社後、2011年まで銀行営業店システムや証券取引所売買システムの基盤SE担当や取りまとめなどに従事。その後、2012年から現在まで、金融ソリューション本部に所属。日立基幹系オープン基盤、バンキングハブ、勘定系ミドルウェアなど、主に基盤~制御ミドル~チャネル接続の開発の取りまとめを経て、2023年より現職。現在は、主にOpenStage事業の取りまとめとして他行展開推進を図るとともに、日立基幹系オープン基盤のパブリッククラウド化に向けた検討を推進している。