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2023年3月より、DX(デジタルトランスフォーメーション)を深掘りする連載企画第2弾がスタートします。テーマは、「DXを加速するアジャイル」。講師は、『アジャイル開発とスクラム』の著者であり、20年以上も日本にアジャイル開発を広める活動をされてきた平鍋健児氏です。連載開始前のプロローグとして、平鍋氏はこの連載で読者に何を伝えたいか。その思いを伺いました。

2000年以前のソフトウェア開発では、何をどのようにつくるのかを時間をかけて分析・設計し、それを膨大な仕様書に落とし込み、そこから一気にプログラムを組んで実装し、最後にようやくテストを行うウォーターフォールという手法が主流でした。一方アジャイル開発は、1週間から1か月という短いスパンで分析・設計・実装・テストを並行して行い、動くソフトウェアを一定間隔で提供しながら、お客さまやユーザーの意見を柔軟に取り入れて成長させていくという開発の手法です。

画像1: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
プロローグ1 --- 平鍋健児氏とアジャイル

ごく単純なたとえですが、ケーキづくりを想像してください。1層目のスポンジケーキを作り、クリームを塗り、2層目を重ね、最後にクリームとイチゴでデコレーションして完成させるホールケーキの作り方、これはウォーターフォールです。実際に食べられるのは最後になります。一方アジャイルでは、いきなり1ピースのショートケーキを作ります。食べられるものを作ることで、顧客やユーザーはその価値を早期に手に取ることができるのです。売れない在庫を持つこともなくなります。

2001年、アメリカにおいて「アジャイルソフトウェア開発宣言」というものが17人の有志によって発信されました。それは、ウォーターフォールという手法に対するアンチテーゼであり、オルタナティブでした。これがアジャイルという名称のスタートです。その宣言では、動くソフトウェアを見て会話すること、顧客と協調して価値を創り出すこと、そして変化への対応の重要性が書かれています。(※)

https://agilemanifesto.org/iso/ja/manifesto.html

2000年当時の僕は、34歳の一人のエンジニアとしてソフトウェア開発の現場で苦しんでいました。仕様書通りに完成したソフトウェアのテストで問題が発生して、徹夜を繰り返す。自分が何をしているのかわからなくなるような日々の中で、アジャイル提唱者の一人であるケント・ベックの『エクストリーム・プログラミング(XP)』(※)という本と出会いました。そして「対話」や「思い」をソフトウェアの品質につなげるこの方法なら、お客さまやユーザーの期待にこたえられるし、自分たちの仕事で社会に貢献することができる。そう直感し、アジャイル開発を広める活動にのめりこんでいきました。

『エクストリーム・プログラミング(XP)』:1999年ケント・ベックらによって定式化され、提唱された、柔軟性の高いソフトウェア開発手法。1999年に書籍『XPエクストリーム・プログラミング入門―ソフトウェア開発の究極の手法』によって発表された。その後、XPはスクラムなどとともに、アジャイルという総称の中の一具体手法として認識される。

海外のカンファレンスにも積極的に参加してセミナーを受講し、それを日本に紹介したり、アジャイル宣言の17人にも会いに出かけ、15人と知り合いになりました。少しでも役に立てればという思いでアジャイル関連の書籍を10冊以上翻訳し、2009年にはAgile Japanというカンファレンスを立ち上げて、毎年、海外スピーカーの基調講演と日本での事例の報告を共有する活動も行ってきました。

2013年には『アジャイル開発とスクラム』という本を、一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生にご協力いただいて出すことができました。経営者やリーダー層の方々にもアジャイルを知っていただこうという狙いで書いたこの本は、おかげさまで2022年には第2版としてリニューアルしました。また、スクラムの開発者の一人であり先の宣言者の一人でもある Jeff Sutherland 博士との友好関係から、スクラムを日本で教育・コーチングする会社 Scrum Inc, Japan を日本に設立することもできました。

アジャイル宣言から20年を越える時が過ぎ、アジャイルは着実に成果を上げ、ソフトウェア開発における存在感を高めてきました。最近入ってきた社員だと、もうアジャイルが前提となっていて、ウォーターフォールを知らない。そんな時代になっています。アジャイルが日本国内で広く受け入れられた最大の要因は、国内のWebサービス企業が2010年以降急速に成長してきたことにあります。これらの企業は、事業におけるソフトウェア基盤をコアにすえ、顧客創出と新しいサービスを投入するスピードを上げるために、積極的にエンジニアを採用してアジャイルでソフトウェアを内製してきたことが大きかったと思います。この流れは現在、自動車産業や金融機関を含めて、多くの大企業でも起こっています。

そして今度はDXというアプローチから、アジャイル開発だけでなく、アジャイル組織、アジャイル経営が注目されるようになりました。

第2回の公開は3月7日です。

画像2: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
プロローグ1 --- 平鍋健児氏とアジャイル

平鍋 健児(ひらなべ けんじ)

株式会社 永和システムマネジメント 代表取締役社長、株式会社チェンジビジョン 代表取締役CTO、Scrum Inc.Japan 取締役。1989年東京大学工学部卒業後、UMLエディタastah*の開発などを経て、現在は、アジャイル開発の場、Agile Studio にて顧客と共創の環境づくりを実践する経営者。 初代アジャイルジャパン実行委員長、著書『アジャイル開発とスクラム 第2版』(野中郁次郎、及部敬雄と共著) 他に翻訳書多数。

画像3: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
プロローグ1 --- 平鍋健児氏とアジャイル

『アジャイル開発とスクラム 第2版』

著:平鍋健児 野中郁次郎 及部敬雄
発行:翔泳社(2021年)

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