日立グループは、2021年3月9日から開催された「リテールテックJAPAN Online」に出展。そこで発表した、日立が思い描く未来のリテールの姿となる「日立リテールビジョン」を紹介します。
リテールビジネスを取り巻く3つの潮流
競争が激しく、常に変化への追随が求められるリテール業界では、直近の課題解決だけにとらわれず、10年先を見据えたビジネス戦略が必要です。だからこそ、日立は中長期的な視点に立ったソリューションを、お客さまに提供したいと考えています。
例えば「サプライチェーン最適化」「コミュニティ」「サステナビリティ」-これらはリテールビジネスの今後10年を考えるうえで、とても重要なキーワードです。
サプライチェーン最適化は、すでに多くのお客さまが関心を持っているテーマです。配送などの物流の最適化、データをもとにした精度の高い需要予測などは、リテールビジネスに取り組む方々なら一度は考えたことがあるはずです。しかし、その先にはさらに2つの新たなテーマが現れると考えています。
それが「コミュニティ」と「サステナビリティ」です。
特に2020年度は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響もあり、今まで当たり前だった人との関わり方を深く考えさせられる1年でした。
企業においてはリモートワークが急速に進み、副業を容認する組織も多く見られるようになりました。購買スタイルや需要の変化など、消費者行動に着目しても、従来の価値観は大きく変わり始めていることがわかります。
こうした変化は対応が遅れると、既存事業の存続も危うくなりかねませんが、一方で新たな事業のチャンスともなり、他社との差別化要素にもなる可能性を持っています。
では、激動の時代において成功の鍵となるリテールビジネスには、どのようなものがあるのでしょうか。
代表例のひとつが、個人事業主の宅配サービスです。個人がインターネットを通じて業務を請け負い、宅配を行う光景は2020年からよく目にするようになりました。
これを契機に浸透していく考え方が、物流事業者間の垣根のないコミュニティ化、すなわちリソースの共有です。
こうしたニーズが今後高まっていくと、会社の枠を超えたやり取りが可能になる仕組みづくりが必要になっていくでしょう。
物流はリテールビジネスでも特に大きなテーマです。すでに物流事業者のリソース不足がさけばれており、最悪の場合、商品が手元に届かないことや、消費者が注文した商品をすぐに発送できない問題などが起こることが予想されています。しかし、社会に生まれた新たな潮流を取り込めば、この問題の解決の糸口が見えてくるかもしれません。
サステナビリティは、SDGsの認知向上にも見られるように、日本だけでなく世界全体の大きなテーマです。リテールビジネスでも、よりエコな原材料を使った商品を仕入れる、食品の安全を担保するトレーサビリティを高めるなどの動きが見られます。
この流れはますます加速していきます。リテール業界でも、経営を最適化して環境負荷の低減を図るエコシステムを構築し、「廃棄ロスをゼロ」にする取り組みが積極的に行われていくはずです。
また、消費者意識の変化によって、今後、お店やサービスを選ぶ基準に「安い」「安心」「便利」だけでなく、「環境負荷」や「社会的意義」も加わることは、遠い未来の話ではありません。それらを察知して、いち早く変化することが、今後10年で成長を続けるリテールビジネスの条件になると予想されます。
生産者と消費者の想いをつなぎ続けるリテールビジネスの理想像
このような社会変化に対して、リテールビジネスの理想像を実現する条件を考えてみます。日立は、これには大きく3つのキーワードがあると考えています。
1つ目は「シェア」です。例えば、エリアごとに事業者とお客さま、配達員をつないで人材を有効活用しつつ、よりきめ細やかな配送を実現する。また、いわゆる「企業内フリーランス」を活用して所属組織内外へリソースを供給し、ジョブ型雇用を前提とした人材活用を推進することで、各所の戦力アップを図る-このように、コミュニティの枠組みが大きく変化するなかでリソースの共有が実現すれば、より安全・安心で付加価値の高い、商品やサービスの提供が可能になると日立は考えます。
2つ目は「快適」です。現在でも行われているお客さまの需要予測などに磨きをかけ、さらに精度を高めることがポイントです。購買履歴だけでなく、購買行動や消費スピードまで分析することで、店舗にはその日に消費者が購入する商品が常に用意されている状態を可能にするでしょう。消費者の生活スタイルが多様化するなか、「欲している」であろう商品をプッシュ型で生産・供給できるようになれば、販売機会のロスを限りなくゼロに近づけることもできるでしょう。
3つ目は「ECO」です。企業は、消費者がお店やサービスを選ぶ基準が変化することを前提に、自ら自社が提供する社会的価値を可視化する必要があります。例えば、環境保護や災害への有益な取り組みが消費者に評価され、企業の信頼度が高まることは容易に想像できます。このような新たなエコシステムへの適応が、今後の企業の成長の鍵を握るのではないでしょうか。
日立がリテールビジネスに貢献できること
このような状況を踏まえ、日立は今後10年先を見据えた「日立リテールビジョン」を掲げました。そこで掲げる「需要と配送の“自律化”」「サプライチェーンの“つながり”」「生活者の“幸せ”」の3段階の取り組みについて紹介します。
需要と配送の“自律化”
日立はこれまで、サプライチェーンの最適化を図るため、リテールビジネスを展開する数多くのお客さまを支援してきました。例えば、三井物産株式会社とは、AIを活用した配送の最適化を実現。ドライバー不足による配送ルートの効率化や自動化を実現すべく、配送計画の自動化やドライバーの帰り便の有効活用、ドライバーの働き方にマッチした計画立案を実現し、トラック台数を最大で10%(*)削減しました。
また、合同会社西友には、弁当・惣菜(そうざい)売場での最適な発注数をご提案し、自動発注による省力化と食品廃棄ロス削減に寄与しています。AIを活用した需要予測システムにより、今後は対象となる商品をさらに増やしていく予定です。
このようなAIを活用した需要予測や配送最適化は、今後もブラッシュアップを重ね、リテールビジネスを手がける企業に新たな価値を提供し続けます。そして、この段階をクリアした先に「サプライチェーンの“つながり”」を生み出します。
* 3社(物流倉庫4センター)の半年間の実績データと、本サービスを使ったシミュレーション結果を比較検証した結果です。当該事例におけるケースとなり、必ずしも同様の効果が出るとは限りません
サプライチェーンの“つながり”
サプライチェーンが抱えている問題のひとつに「物流の分断」が挙げられます。どこでリソース不足が発生して、どこで余っているのかなど、物流データの分断が発生すると、地域のサプライチェーンですら、どこにボトルネックを抱えているかが見えません。
そこで日立が持つ「データをつなげる」という強みを生かし、物流データを共有するプラットフォームを構築し、物流に関わる企業や個人事業主のデータをつなげ、シェアできる環境を開発します。これにより、サプライチェーンの先にいる消費者も、欲しいものが早く確実に手に入る状態になり、満足度がさらに向上するでしょう。
生活者の“幸せ”
スマートフォンの普及などでデジタル化が進み、消費者とのタッチポイントやサービスの利用方法はますます多様化しています。これにともない、消費者のニーズも多様になり、需要予測はさらに難度を増していきます。
そこで、さきほどのプラットフォームをベースに、生活者の行動データなどを加えて「嗜好(しこう)インサイト分析」を行い、潜在需要を見いだしていきます。この潜在需要をサプライチェーン上の各サプライヤーと共有することで、生活者の気持ちなどを“察するマーケティング”が実現し、生産や物流のムリ・ムダが解消されて、環境や社会に優しい未来が訪れます。
また、生活者にとっても、自分では気づかないニーズが発見でき、QoL向上にもつながるでしょう。
ここでお伝えしたビジョンの実現は、サプライチェーンに関わるすべての人々に、よりよい未来をもたらしていくと日立は考えます。このビジョンを実現するため、日立はお客さまとともに、これからもさまざまな取り組みにチャレンジしていきます。そして、環境に配慮したサステナブルな社会をめざし、生産者と生活者の想いをつなぐ要(かなめ)となります。
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