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製造業では、自然災害や地政学リスクを乗り越えてモノを安定的に供給することが最重要課題になっています。それには調達リスクの素早い把握と迅速な対処を可能にする仕組みが不可欠です。日立製作所は「TWX-21サプライチェーンプラットフォーム(以下、TWX-21 SCPF)」を活用して、サプライヤーの管理と調達リスクの可視化を大幅に効率化しました。導入プロジェクトを率いたバリュー・インテグレーション統括本部の小又久美子と日景喬一が、その経緯と成果について語ります。

QCD最適化から「不確実性の制御」にシフトする調達部門の役割

——材料や部品を入手する調達業務は、QCD(品質、費用、納期)の最適化が主な使命だと言われています。しかし近年はこの価値観や、調達部門の役割が変わりつつあるそうですね。

小又
はい。2020年頃から、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックや各地での紛争が発生し、地政学的な緊張が高まっています。また、地球温暖化の影響で地震や洪水など大規模自然災害も頻発するようになりました。世界各地で複合的かつ同時多発的なリスクが発生しており、事業を遂行する上での不確実性は今までになく高まっています。

そうなると調達部門でも、これまでのように「事態が発生してから対策を考える」のではなく、プロアクティブ(能動的)に対処して調達サプライチェーンのレジリエンス(リスク耐性・回復力)を高めなければなりません。この観点から調達部門では、2024年度に調達リスクを経営課題の一つと位置づけ、調達の業績貢献の軸を単価低減から事業リスク低減にシフトし、従来のQCD最適化に加え、調達リスクマネジメントを強化してきました。

小又 久美子
株式会社日立製作所
バリュー・インテグレーション統括本部 Global Procurement Transformation & Resilience本部 調達インテリジェンス部 調達リスク管理センター 兼 CPOオフィス 企画部

——調達リスクの低減の取り組みの一つとして、リスクを可視化するシステムを活用していたとのことですが、従来のシステムにはどのような課題があったのでしょうか。

日景
従来、スクラッチ開発のシステムを運用しておりましたが、調達サプライチェーンに影響を及ぼすリスクに対して迅速な影響調査を行うためには、ユーザビリティに課題がありました。回答に至るまでの動線がやや分かりづらく、回答項目も多かったため、回答受領までの期間や回答率が期待した水準に至らなかったというのが実情です。

結果として各事業分野の調達担当者が電話やメールで個別に問い合わせ、「Microsoft Excel」などで集計する手間が生じていました。また、各担当者が集めた情報を本社管理部門が把握するのに時間がかかることも問題でした。

日景 喬一
株式会社日立製作所
バリュー・インテグレーション統括本部 CPOオフィス調達DX部

小又
「震度」は気象庁が定める日本の尺度なので、このシステムは海外の地震に対応していませんでした。地域軸に加え、大規模火災や洪水など他の災害も視野に入れた対策を考える必要がありました。

TWX-21 SCPF-サプライチェーンリスク可視化サービスによる「情報の質と量」の変革

——そこで新たに採用したのが「TWX-21 SCPFサプライチェーンリスク可視化サービス(以下、SCリスク可視化サービス)」ですね。

日景
はい。これは日立製作所が提供する企業間取引を支えるサービス群「TWX-21」のサービスラインナップの一つで、サプライチェーンリスクとそれによる影響を可視化するシステムです。2025年2月に導入プロジェクトをキックオフさせ、同年10月から稼働しました。

小又
「SCリスク可視化サービス」は日本の気象庁の情報のほかにも、「GDACS(Global Disaster Alert and Coordination System)」のデータやニュース情報などをもとに、世界中の災害情報を把握できます。調達サプライチェーンへ影響を及ぼす可能性のあるリスクの判断材料として処理できる情報は質と量ともに増えました。火災、洪水、物流トラブルなど広範な災害の情報をサービス画面上の「世界のリスクニュース」として参照できる機能も分かりやすくて便利です。このリスクニュースは、リスク発生地域に該当拠点がある場合、弊社ユーザーだけでなく新システムをご利用いただいている調達パートナーにも通知されます。これにより、弊社のみならず調達パートナー側でも初動対応が早まることを期待しています。

——調達パートナーの情報は、どのように旧システムから新システムに引き継いだのですか。

日景
これまで日立製作所にはサプライチェーンを管理する単一のシステム基盤がなく、事業分野ごとに調達パートナーの管理粒度や管理方法が異なっていました。そのため新システム立ち上げの時に、各事業の担当者からの要望に応じて個別対応し、バラバラのデータを整理して格納するデータクレンジングを行いました。複数の事業体に納品している調達パートナーは、取引関係のある事業ごとに登録しています。

今回のシステムでは、各事業体を起点として「Tier 1(1次調達パートナー)」「Tier 2(2次調達パートナー)」の取引関係をたどれるように、サプライヤー情報はツリー構造で登録しています。ツリーは上流側のTier 2、Tier 3へと伸ばせますし、原材料や資源の調達パートナーまでさかのぼることも理論上は可能です。

小又
ただし目的はあくまでも調達サプライチェーンのリスク管理ですので、当社にとって事業継続上重要な調達パートナーや、継続的に取引があるなど各事業にとってリスク管理の優先度が高い企業を登録対象としています。

実際の運用で証明された「圧倒的な回答速度」

——2025年10月の本番稼働から現在までの間に、どのような成果がありましたか。

日景
2026年2月時点で調達パートナー情報として約2万6,000拠点が登録されています。事業間での重複登録があるため単純な比較はできませんが、旧システムの登録数は約1万5,000拠点でしたので、カバー率は高まっていると考えられます。

小又
本社調達部門では、新システムに登録されている日立グループ全ての調達パートナーを同じ環境で管理できるため、災害発生時に調達パートナーの稼働ステータスを容易に把握できるようになりました。

日景
中でも改善を実感したのは、調達パートナーに影響調査依頼を出した後の回答速度です。旧システムでは、災害が発生した場合、被災状況を確認するのに約2週間を要することもありましたが、新システム稼働後に発生した事象では、2日後に約9割の回答を受領し、4日後には影響調査を完了できました。

先ほどもお話ししたとおり、旧システムはユーザビリティに課題を抱えておりましたが、新システムは調達パートナーが被災状況等の回答をするためにサービスへのログインの必要がなく、回答依頼メールからワンクリックで回答画面に遷移します。入力項目も影響有無の一次確認に主眼をあてることで非常にシンプルなものになっており、回答のしやすさも向上したと考えています。

——これらの成果について、経営面にもたらす効果やメリットは何でしょうか。

小又
弊社は社会インフラを支える製品やサービスを提供する企業であり、供給途絶による製品納入の遅延が社会に大きな影響を与える可能性があります。調達リスクマネジメントの強化によるサプライチェーン全体のレジリエンス向上は、お客さまへの安定供給や、安定稼働による収益確保にもつながる取り組みと考えています。

AIでサプライチェーンを強靭化

——サプライチェーン強靭化に向けた今後の展望を教えて下さい。

小又
調達パートナーの登録数を増やしてサプライチェーンの可視性を高める活動は、これからも続ける必要があります。近年、レアアース(希土類)の輸出規制などサプライチェーン上流に潜在する調達リスクの把握も重要となっており、この課題にも対処しなければなりません。

今後は、ロケーションベースのリスク管理、つまり製造拠点の地理的情報を軸とした調達サプライチェーンリスクの可視化に加え、調達パートナー自身のリスク管理も重要です。

そうした機能拡張に寄与する技術として、AI活用にも期待しています。AIを活用すれば、原材料に近い上流部分のサプライチェーン可視化や調達パートナー自身に内在するリスク分析などもできるのではないでしょうか。また、リスク検知と分析に加え、代替調達先の提案など対策アクションや意思決定を支援する仕組みが整うことにも期待しています。

日景
正確な状況把握のためには登録データの品質が非常に重要であり、データのクレンジングが現在でも課題の一つです。また、サプライチェーンのTier Nの可視化についても人海戦術では限界があります。これらの課題についてデータ統合をサポートするAIやTier 2以降のサプライチェーンネットワークを推定するAIを搭載することで調達リスクに備えたデータ基盤の深化が期待できます。

——調達リスクの判定に当たって、AIに物流の経路を分析させるといった使い方もできそうです。

小又
物流経路における調達リスクの影響を大きく受けるのは日本国内の取引よりも、航路や空路を利用した輸出入を伴う取引だと考えています。AIを活用することにより、点ではなく線でモノの流れを可視化できれば、輸出入を伴う取引における調達サプライチェーン上のリスクを把握する上で有用だと思います。

——同様の課題を認識し、サプライチェーン強靭化や調達リスク可視化をめざす企業に向けて、メッセージをいただけますか。

小又
将来的には、調達パートナー各社にも取引先を登録していただき、相互に可視化できるサプライチェーンを広げるのが理想です。有事の際にバイヤーと調達パートナーが同じ情報を見て対策を協議するのに役立つ共通基盤となってほしいですね。また、今回、日立自身が自社の調達業務革新に挑んだプロセスとノウハウが、同じようにサプライチェーンの課題に直面している皆さまの解決の一助となればとも思っております。

日立が実践した「2万6,000拠点の可視化」を支えるプラットフォームの全貌

【無料ダウンロード】はこちらから

小又 久美子(こまた くみこ)
株式会社 日立製作所
バリュー・インテグレーション統括本部 Global Procurement Transformation & Resilience本部
調達インテリジェンス部 調達リスク管理センター 兼 CPOオフィス 企画部

日景 喬一(ひかげ きょういち)
株式会社 日立製作所
バリュー・インテグレーション統括本部
CPOオフィス 調達DX部

本記事に記載の会社名、製品名は、それぞれの会社の商標または登録商標です。

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