エグゼクティブの生成AIの使い方
【第2回】Hitachi Digital LLC COO 安井隆宏の活用術（前編）

意思決定に生成AIを活用

大山
私はGenAIアンバサダーとして、日立グループの生成AI活用促進活動に携わっていますが、活動を通じて、すでに生成AIは当社の多くの従業員にとって日常的なツールとして浸透していると感じています。そしてHitachi Digital LLCのCOOである安井さんも、やはり生成AIを折に触れ使っているということです。

以下に安井さんの1日の活用イメージをまとめましたが、今日はその中からいくつか具体的な使い方を、実際にどのようなプロンプトを入れているのか見せてもらいながら聞いていきたいと思います。
ではまず活用術の前に、安井さんの業務の概要を教えてもらえますか。

安井
はい。私の業務は、CEOが設定した目標に向けて、各部門やグループ会社において業務が問題なく運営されているかどうかの管理、ということになります。具体的には、関係各所から定期的に届く業績報告書について、順調に成長しているか、指摘した課題は解決されているかをチェックし、新たな課題が発見された部分についてはそれぞれのリーダーの皆さんと対話して新しい戦略を立案し、その実行を監督します。

大山
日々高度な意思決定の連続だと思いますが、そこでもやはり生成AIは活躍していますか。

安井
はい。意思決定には情報の収集と精査が重要ですが、非常に時間がかかります。生成AIの登場は、この時間をギュッと圧縮し、私の考える時間を拡大してくれました。情報収集の他にも、市場や競合の分析、英語でのスピーチの作成、戦略策定のためのブレインストーミングの相手など、できることは全部やらせたいと思って使っています。

プロンプトを生成AIに作らせる

大山
例えば経営指標を改善する検討では、どのようなプロンプトを入力するのでしょうか。

安井
そうですね。まず競合の社名と、あとは参照したい経営指標——「グロスマージン」や「営業利益率」などのキーワードを入れていく感じですね。これまでは、ネットでその会社の財務情報のページを検索して、サイトから見たい情報を一つひとつ拾っていたので、生成AIのおかげでかなりの時短になっていると思います。

大山
なるほど。ただ、そのプロンプトだと数字を引っ張ってくるだけなので、まだ生成AIの能力を十分に引き出せていないかもしれません。回答を目的に合わせて高度化させるためにプロンプトに背景情報を入れてみましょう。例えば、私は、こういう人です、とか、このデータをこういうことに活用します、とか。

安井
「私はIT インテグレーションビジネスの戦略アドバイザーです」という自分の立場と、背景として「収益性の改善、特にGM改善、Utilization率 Offshore率改善、SG&A改善」と打ちました。

大山
はい。これでも良いのですが、プロンプトはより具体的な方がAIの誤解を防ぐことができ、目的の回答を得られやすくなります。でも、これ以上プロンプトを詳細に書くのは手間ですよね。なので、生成AIにプロンプトを作らせましょう。先程のプロントの最後に「上記を行うためのプロンプトを生成してください」と追加して、生成AIにメッセージしてみてください。

安井
なかなか厚みのあるプロンプトが生成されました。背景として入れた課題を生成AIが自動的に細分化してくれた感じですね。

大山
そうですね。このプロンプトはもちろん精査する必要がありますが、今日のところはそのままコピペして生成AIにメッセージしてみましょう。

安井
かなりの長文の回答が返ってきました。生成AIが、それぞれの課題を解決するために何を行うべきか、具体的に施策を提案してくれていますね。これはひとつの示唆になります。また、先程私がやっていた、気になる指標について1個ずつ質問して、それぞれの回答を自分でまとめて、それに対してゼロから対策を考える、というやり方とは全然効率が違います。

それにプロンプトは自分で考えるものと思っていましたが、生成AIに考えさせるというのは、目から鱗です。優れた回答は欲しいですが、あのような長いプロンプトは時間がないと書けません。

生成AIで広く深い観点を担保

安井
ただ、プロンプトが一般的だったので仕方がないのですが、この生成AIの提案内容はもう少し掘り下げたいですね。

大山
回答の中で、深掘りしたいのはどこですか。その部分をプロンプトのエリアにコピペして、文頭に「下記の情報を詳細に詳細に詳細に」と入力してメッセージすると、生成AIからグッと掘り下げた回答が返ってきます。

安井
3回「詳細に」を繰り返して、深掘りしたい部分をまるっとコピペして、メッセージします。
なるほど。さっきと比べて4～5倍の分量の回答が返ってきました。内容も、普段業務で見ているレベルにまで上がっています。

大山
生成AIにやって欲しいことがあれば、人と対話するように、こうして欲しい、とまずは素直にお願いすることです。特にここが知りたい、ということがあれば、先程の「詳細に」の3回繰り返しのようにエモーショナルにプロンプトを書くのも方法です。また、どう聞けば良いのか分からなければ、さっきのように「プロンプトを考えてください」と逆に聞いてしまえば良いのです。

安井
深掘りするにつれて生成AIの回答の精度が上がることはもちろんですが、その観点の広がりと深まりもビジネスにとって非常に意義があると思いました。

私の業務に照らし合わせると、例えば各部門から出されたビジネスプランをレビューする際には観点がきわめて重要で、ある観点から素晴らしく理想的なプランに見えたものが、観点を掘り下げると、まったく現実的ではない、絵に描いた餅に過ぎないと分かることがあります。こうした読み違えは意思決定において絶対に避けなければなりません。その時、生成AIを活用して広く深い観点を担保することは、意思決定に非常に有効だと思いました。次にレポートのレビューなどをする時には、今回もらったアドバイスをすぐに実行したいと思います。

それにしても今日の学びはうれしいを越えて、私は今までなんと非効率的なことをやっていたんだ、とガッカリ感の方が大きいですね。

大山
他にどのようなシーンで生成AIを使いますか。何か課題があればアドバイスします。

安井
はい。私は、1年の8割以上を米国で業務していて、現地のスタッフと日常的にミーティングを開いています。しかし私は英語のネイティブスピーカーではないので、メッセージが間違いなく伝わるよう、いつも生成AIに適切なフレーズや表現について相談しています。これも、もしかしたらもっと上手な使い方があったりするでしょうか。

大山
なるほど。それでは次は、生成AIを使って効果的な英語のコメントを作る方法をみていきましょう。

「【第2回】Hitachi Digital LLC COO 安井隆宏の活用術（後編）」はこちら＞

安井 隆宏（やすい たかひろ）
Hitachi Digital LLC COO

2001年4月 株式会社 日立製作所 入社。2015年10月 情報・通信システム社 IT プラットフォーム事業本部サービスイノベーション統括本部 IT基盤ソリューション本部 OSSソリューションセンタ長。2019年4月 サービス&プラットフォームビジネスユニットサービスプラットフォーム事業本部ソフトウェアCoE本部長。2021年4月 社会ビジネスユニット公共システム事業部官公ソリューション第一本部長。2023年4月 Hitachi Vantara LLC Chief Lumada Business Officer。2023年11月 Hitachi Digital Services LLC Chief Lumada Business Officer。2024年10月 クラウドサービスプラットフォームビジネスユニットCOOを経て現在、2025年4月Hitachi Digital LLC のCOOを務める。

大山 友和（おおやま ともかず）
株式会社 日立製作所 デジタルシステム＆サービス営業統括本部
Executive Strategy Unit
GenAIアンバサダー

日立製作所入社後、コンサルティング部門にて営業業務改革や新規事業の立上げなどに従事。日立コンサルティングに出向後は、基幹業務システム構築などに従事し、プロジェクトリーダーとして、システム企画・構築・運用全般を統括。その後、日立製作所に戻り、営業バックオフィスを支える業務システム全般を統括してきた。現在、営業部門の生成AI徹底活用PJの取纏めとして、講演活動やナレッジ蓄積、社内コミュニティ運営、人財育成などの取り組みを推進中。