業務別！生成AI使いこなし術
【第3回】マーケティング部門編（前編）

生成AIとの共同作業を楽しむ

大山
今回は、日立製作所のデジタルシステム＆サービス営業統括本部 Executive Strategy Unitで業界の将来予測から顧客ナーチャリングプランの策定まで幅広くマーケティング業務に携わっている冨手さんに日々生成AIをどのように活用しているのか、聞いていきたいと思います。

事前にマーケティング部門における1日の生成AIの利用イメージをまとめてもらいましたが、多岐にわたって使っていますね。生成AIの使用前と使用後では、仕事にはどのような変化がありましたか。

冨手
現在、Microsoft の生成AIである「Microsoft Copilot」と、社外秘情報も扱えるようセキュリティが確保された日立の生成AI「Effibot」の2つの生成AIを使っていますが、自分の考えに集中できる時間が明らかに増えました。例えば私たちの業務に欠かせない情報収集ですが、以前は根気を要する検索作業だったものが、いまではプロンプトを入力するだけで、生成AIが情報を集めてくれます。新聞に例えると、以前は丹念にすべての記事に目を通していたものが、今は「ここを読むといいですよ」と生成AIが教えてくれているイメージです。多くの業務において同様のアシストを生成AIが提供してくれていて、そのぶん集中すべき業務により多くの時間を割くことができていると思います。

大山
でも、冨手さんの生成AIの第一印象はいまひとつだったそうですね。

冨手
はい。最初は、どんなにすごい回答が出るのだろうという期待値が大き過ぎて、あれ、こんなもの？と。でも程なく、こちらが出すプロンプトがぞんざい過ぎた、ということに気づきました。補足情報なども交えながら、丁寧に指示を出すことを学んでからは、期待した回答が返ってくるようになりました。

大山
プロンプトには4つの要素が必要です。それは、プロンプトがめざす「目的」、その回答がなぜ必要なのかという「背景」、回答のもとにして欲しい「ソース」、どういう形で回答して欲しいかという「出力形式」です。この4つが含まれていれば、欲しい回答が返ってきやすいと思います。

あとは初手のやりとりで諦めずに、会話を重ねながら一緒に回答を整えていくんだ、というマインドで生成AIとつきあってください。人間同士の共同作業でも、成果物が仕上がるまでに何度もやりとりしますよね。それと同じです。

冨手
そうなんです。会話によって回答を深掘りする使い方を覚えることで、より高度な業務で生成AIを活用できるようになりました。実は最近、生成AIとの共同作業に楽しみを見出しつつあって、期待通りのアウトプットが出てきたら「いい感じですね」とか、難しい質問に対しては「自信を持って答えてください」とか、少し体温のあるプロンプトを入力してみるのですが、そうすると回答の質が上がるような気がします。

大山
それは「エモーションプロンプト」ですね。プロンプトに感情を込めることで回答の精度が上がることが、論文で発表されています。ぜひ続けてください。

未来シナリオの作成

大山
それでは、事前にまとめてもらった生成AIの利用イメージに基づいて使いこなし術を聞いていきたいと思います。1日のスタートをニュース記事やソーシャルメディアの反応など、最新情報の収集から始めるのは多くの業務で共通しているようです。

さて、その後、「未来シナリオ」の作成において生成AIを活用するということですが、これはどのような業務になりますか。

冨手
いま社会において少子高齢化、急速なデジタル化、環境問題の深刻化などさまざまな変化が起きています。私たちは、10年後の未来において価値観やニーズ、社会がどう変化するのか、社会変化に伴い社会課題がどうなるのか、その社会課題がインフラ事業者、農林水産業、建設業、製造業、金融業など各業界にどのような影響を与えうるのかを検討し、未来シナリオという形でまとめています。従来の工程としては、社内の関係者を集めてワークショップを開き、議論を重ねてシナリオの作成となりますが、この工程を、小規模な形でクイックに行えないか、など効率化を考えています。そこで生成AIに各業界に対して予想される影響をひとまず網羅的に洗い出してもらい、ワークショップ用のインプット情報として活用する取り組みを進めています。

大山
発言を引き出して、議論を活性化させる呼び水としての効果がありそうですね。

冨手
はい。社内の人間だけだと議論がどうしても足元の話ばかりに偏りがちなところを、生成AIに視野を広げてもらって固定観念のない発想につなげたいというねらいです。

他にも生成AIは、ワークショップ企画時のアジェンダの設定や参加者の選定などにも活用できますし、テーマによってはワークショップを開催せず、生成AIのアウトプットを中心に初期的なシナリオを作成することも可能かもしれません。

お客さまの将来展望の作成

大山
続いての「顧客の将来展望」の作成は、先程の未来シナリオに連続した業務になるそうですね。

冨手
はい。未来シナリオを前提とした時に、それぞれのお客さまについてどのような「ありたい姿」が考えらえるのか、「将来展望」を描く業務になります。用途としては、私たちはお客さまの中で経営に近い立場の方とコミュニケーションする機会を想定することが多いですが、その際のディスカッションペーパーにこの将来展望を落とし込んでいきます。

現在はまだ人手によるところが多いですが、生成AIに、お客さまの中期経営計画やIRなどの公開資料と未来シナリオを読ませて、未来シナリオに対して業界が未対応の分野、対応を始めている分野、すでに事例を重ねている分野などを抽出できないかと考えています。「ありたい姿」の初期仮説をつくる工程は、アイディア出しの部分で生成AIが活躍してくれます。

大山
最終的には人間が精査するとはいえ、未来シナリオといい、お客さまの将来展望といい、複雑な分析を生成AIで行っていますね。

冨手
こうした複雑な分析は、初手で完璧な答えは出ません。先程もお話しした通り、生成AIとの会話によって回答を深掘りしながら、アウトプットを整えています。

未来のイメージ画像の生成

冨手
また、ディスカッションペーパーの仕上がりに大きく貢献しているのが生成AIによる未来のイメージ画像の生成です。未来を語る際に、文字だけでは伝わりにくいソリューションもあり、そんな時にイメージ画像はとても有効なのですが、既存の素材からぴったりの画像を探すのは困難ですし、画像を作成してくれる部署もあるのですが、完成にはどうしても時間がかかります。そんな時に生成AIならば、手軽かつ瞬時にイメージに合ったものを提示してくれます。

大山
こうしてできた質の高いディスカッションペーパーによって、お客さまとのコミュニケーションが深化し、論点があぶり出されていくわけですね。この一連の使い方は、とても理想的なユースケースだと感じています。

これから人間と生成AIの共同作業がマーケティング業務のスタンダードになっていきますが、その時に、すでにネットなどで公開されている情報、すなわち2次情報を扱うプロセスはことごとく生成AIに置き換わります。そして人間には、お客さまとの対話で直接得た情報、すなわち1次情報において、質の高いものをいかに集めるか、が問われます。

このユースケースでは、2次情報を生成AIが資料にまとめ、それを活用して人間が質の高い1次情報を収集します。そして、新しい1次情報と2次情報を掛け合わせることでイノベーションを生み出していく。まさに生成AI時代の業務の進め方だと思います。

後編では、リードナーチャリングでの生成AI活用について、聞いていきたいと思います。

業務別！生成AI使いこなし術 【第3回】マーケティング部門編（後編）はこちら＞

冨手 俊輔（とみて しゅんすけ）

株式会社 日立製作所　デジタルシステム＆サービス営業統括本部
Executive Strategy Unit 営業戦略企画部
主任

日立製作所に入社後、IT関連の営業部門にて、流通業、卸売業、エンターテイメント業などを幅広く担当。基幹システム構築やITインフラ環境改革などに携わる。また営業内でマーケティングとしての役割も行い、流通業向けセミナー企画や社内営業プロセス改革に従事。2018年から1年間英国（Lancaster University）へMBA留学を実施。現在は営業戦略企画部で市場を上流から捉えた戦略策定やマーケティングイベントの企画運営を行う。

大山 友和（おおやま ともかず）

株式会社 日立製作所　デジタルシステム＆サービス営業統括本部
Executive Strategy Unit
部長代理　GenAIアンバサダー

コンサルティング部門にて、営業業務改革、新規事業の立上げなどに従事した後、日立コンサルティングにて、基幹業務システム構築などを担当。プロジェクトリーダーとして、システム企画・構築・運用全般を統括その後、営業バックオフィスを支える業務システム全般を統括。現在、営業部門の生成AI徹底活用プロジェクトの取りまとめとして、講演活動、ナレッジ蓄積、社内コミュニティ運営、人材育成などの取組みを推進中。