大学はデータ活用の実験場
シンポジウムは日立製作所と東京大学生産技術研究所が設置した「ビッグデータ価値協創プラットフォーム工学 社会連携研究部門」の主催により行われ、東京大学生産技術研究所の大口敬副所長による開会挨拶で開幕しました。共催する日立製作所の執行役副社長 阿部淳も挨拶を述べ、今回のテーマである社会潮流と日立の取り組みを紹介。続いて行われた第1部では3件の研究成果が報告されました。

株式会社 日立製作所 執行役副社長 阿部 淳

東京大学生産技術研究所 教授 合田 和生 氏
本社会連携研究部門を率いる東京大学生産技術研究所 合田和生教授の成果報告では、まずビッグデータ価値協創プラットフォーム工学 社会連携研究部門の設立趣旨を振り返り、実験拠点であるビッグデータ価値協創実験基盤(Lumada東大生研ビッグデータラボ)に言及。「このラボは自由闊達(かったつ)に議論しビッグデータを扱うことができる実験プラットフォームであり、小さな失敗と試行錯誤を繰り返しながら結論にたどり着く場」と紹介しました。
そして、これまでの研究活動の成果として、データベースの処理を超高速化するアルゴリズム、データ基盤のエネルギー高効率化技術、製造業の品質保全トレーサビリティの爆速化技術とその応用、内閣府SIP統合型ヘルスケアシステムにかかわるデータ基盤の構築などについて報告。「大学はデータ活用の実験場、しかも失敗が許される実験場です。産業界の皆さま、データ活用に課題をお持ちでしたら、ぜひわれわれにぶつけてください。そこから新しい技術やソリューションを生み出し、社会課題の解決や学術成果につなげたいと考えています」と結びました。

また、日立からは2名が研究成果を報告しました。マネージド&プラットフォームサービス事業部の佐藤淳平による報告は、東京大学との協創活動として取り組んできたレセプトデータの集計・分析技術の高度化に関するもの。ヘルスケア分野の業務高度化に寄与するため、日立の超高速データベースエンジンHADBを用いた高速処理が可能なデータ基盤と、カラムストア型のベクトル構造を用いた分析しやすく高速処理が可能なデータ構造を実現したことを紹介しました。

株式会社 日立製作所 マネージド&プラットフォームサービス事業部 佐藤 淳平
研究開発グループの高尾大樹は、ビッグデータ向けシステムリソース最適化技術について報告。製造業の現場を支えるアプリケーションなどのデータベース容量の大きさが課題となるシステムでは、データベースの設計が重要であることを示し、顧客情報の分析、製造工程の追跡といったデータ活用の目的に応じた最適な設計方法を紹介しました。

株式会社 日立製作所 研究開発グループ 高尾 大樹
シンポジウムの第2部では、日立製作所の花岡誠之による講演、喜連川優 東京大学特別教授による基調講演、そしてパネルディスカッションが行われました。ここからは花岡誠之の講演の模様をお届けします。
【講演】「生成AIにより社会課題を解決する日立の取り組みと未来への挑戦」
社会課題を解く上で欠かせない「データ基盤技術」の研究
日立グループは、お客さまとともに社会課題を解決する社会イノベーションに長年、注力しています。データとテクノロジーで健全な地球環境、人々の幸せを両立し、サステナブルな社会を実現することをめざしています。

株式会社 日立製作所 デジタルサービス研究統括本部 統括本部長 花岡 誠之
その目標に向け、研究開発グループではさまざまな分野でのイノベーションに取り組んでいますが、東京大学生産技術研究所の喜連川・合田研究室とは、国家プロジェクトを通じてビッグデータ分析基盤の核となる技術を培ってきました。その取り組みが、東京大学との協創活動であるビッグデータ価値協創プラットフォーム工学社会連携研究部門につながっています。本部門では社会課題を解く上で欠かせない「データ基盤技術」を研究しています。生成AIが急速に発展する中で、データを活用して新たな価値を見出すためにも、その重要性はますます高まっています。

今日の社会課題としてまず挙げられるのは人手不足です。システム開発、カスタマーサポート、製造現場などでフロントラインワーカーを支えるソリューションが求められています。日立はそれぞれの現場の業務において、生成AIを適用した技術の効果について試行・検証してきました。
それらの技術を、生産性の向上や業務の効率化だけでなく、現場のナレッジや技能の継承につなげ、日立のみならず日本の産業界全体の競争力向上に貢献していきたいと考えています。

フロントラインワーカーを支えるユースケース
具体的な生成AIのユースケースとして、まずシステム開発の現場では、成果物のばらつきを軽減するためのプロンプト生成を自動化しています。またレガシーシステムの移行において、ソースコードから設計書を生成するリバースエンジニアリングに適用し、効率化を図っています。
カスタマーサポートでは、顧客からの多様な問い合わせに対して素早く適切に回答するために、多岐にわたるデータとナレッジを使う必要があります。そこで、生成AIに情報検索機能を組み合わせた高度化RAG(Retrieval Augmented Generation)が有効であると考えています。
製造現場では、フロントラインワーカーの高齢化や仕事の属人化などが課題となっています。それらに対しては熟練者の形式知・暗黙知の継承が重要になるため、汎用LLM(Large Language Models)に企業固有のデータなどの業務知識を学習させた業務特化型LLMが有効であると考えています。

生成AIにより、機械やロボットなどとの言語を用いたインタラクションが発展する可能性があります。また暗黙知や、異なる業種・業務などの複数のドメイン知識なども取り込んでいくことにより、新たな「知の循環」が形成できるのではないかと期待しています。
このような生成AIとの協働によって、日立はフロントラインワーカーが輝ける未来の実現をめざしています。そのためのデータ基盤の整備や、生成AIの拡大で課題となっているデータセンターの省エネルギー化にも取り組んでまいります。

【基調講演】「デジタルの潮流とGenAI」
生成AI時代のカギを握るデータ基盤
花岡誠之の講演に続き、喜連川優 東京大学特別教授が「デジタルの潮流とGenAI」と題した基調講演を行いました。日本における生成AI、日本語LLMの研究開発の現状に触れ、生成AIの利活用のカギを握るのは高品質なデータと高度なデータ基盤技術であると指摘。ベクトル検索をはじめとする技術の重要性と関連技術の研究開発における社会連携研究部門への期待を語りました。

東京大学 特別教授、情報・システム研究機構 機構長 喜連川 優 氏
第2回では、パネルディスカッションの模様をお届けします。