技術を起点にWow!を生み出す
——はじめにTeamQとは何を行う組織なのか、教えてください。
玉山
まずTeamQの位置づけですが、母体となる組織は、日立が2023年4月に設立した「デジタルエンジニアリングビジネスユニット(以下DEBU)」です。日立ではデジタルエンジニアリングを「顧客の企業価値を向上するエンジニアリング」と位置付けていますが、お客さまの経営課題をデジタルで解決するために必要な社内リソースをこのDEBUに集約し、DX協創の要となる事業部門として強化しています。
そしてTeamQはDEBUの中の「Data & Design」という部門で、Wow!を生み出すプロトタイピングに特化したチームです。
——Wow!を生み出すプロトタイピング、ですか。
玉山
通常のプロトタイプは、コンサルティングでお客さまの課題を抽出したら、それを起点にUI/UXをデザインし、実際に構想通りの価値を生むのか検証するために作るものです。日立でももちろんこの課題起点のアプローチがプロトタイピングの基本ですが、TeamQが採るアプローチは基本と異なり、技術起点になります。
近年、生成AI、XR、3Dモデリング、IoT、ドローンなど、新しいデジタル技術が世の中に続々と生まれています。これらの技術は今後の社会や産業に大きな影響を及ぼす可能性がありますが、まだ実用化の研究途上でそのポテンシャルの一部しか私たちには活用できていません。TeamQは、この隠れた部分に潜んだ価値を発掘しようと思っています。
つまり前述したようなさまざまな新しい技術について徹底的に考え、それを起点に社会や産業に新しい価値をもたらす使い方を発見し、UI/UXをデザインしてプロトタイプを開発する。そして、お客さま先や各種イベント、日立社内での体験会などさまざまな場で実際に新しい価値を体験いただく、というのがTeamQの仕事になります。その時、実際にプロトタイプ化するかどうかの判断基準が、そこにワクワク感や期待感があるか、すなわちWow!があるかどうかになります。
さまざまなバックボーンを持つギーク集団
——つまりTeamQは、新しい技術でビジネスはこう変わる、を体験させてくれるのですね。
玉山
私たちは、TeamQを「Wow!を生み出すギーク集団」と定義付けています。ギークとは、特定の技術分野に非常に強い興味、知識を持つ人たちのことを意味する、「オタク」や「マニア」に近い意味の英語のスラングです。
メンバーは現在約10名で、UI/UXを設計するデザイナー、構想した価値を検証可能な形にするプロトタイプエンジニア、データから価値を引き出すデータサイエンティストなどの肩書を持ちますが、ギーク集団を名乗る通り、それぞれが生成AI、3Dモデリング、XR、ドローンなど、精通した得意分野を持っていて、みんな自発的に勉強して日々新しい知見を貯めてくれています。
定例ミーティングではメンバーそれそれが、この技術をこう使ったら社会に新しい価値を提供できるんじゃないか、というアイデアを自由に出し合い、他のメンバーも自分の得意技術を組み合わせながらアイデアを膨らませていきます。しかも、メンバーはDEBUに所属する前は、金融やビルシステム、ヘルスケアや家電、ソフトウェア開発などさまざまな事業部門に向けたシステムのデザインや開発に携わっていたので、強みを持つドメインナレッジもさまざまです。アイデアの応用範囲も業種を超えて広がっていきます。そして最終的に、このアイデアはすごいね、見たことないね、など、みんながWow!と感じたものをプロトタイプ化していくことになります。
——そうした活動をリーダーとして引っ張っているのが、玉山さんなのですね。
玉山
TeamQにおいて私は単なる取りまとめ役です。実はTeamQは有志が集まった部署横断のギーク集団なのです。多様なバックボーンを持つギークたちがフラットに交わることができる集団であることが、TeamQのミッションともいえる「Wow!を生み出すプロトタイピング」には大切なことだと思っています。
体験がお客さまの想像力を刺激する
——それでは実際にこれまでどのようなプロトタイプを作ってきたのか、ご紹介ください。
玉山
例えば、昨年のイベントでデモを行った日立デジタルのCEOである谷口潤のデジタルアバターですが、これは生成AIに谷口さんの画像を学習させて生成したアバターに、谷口さんが書いた文章を、ボイスクローニングという技術を使って谷口さんの声で読ませる、というデモになります。今はこの進化系を作成していて、アバターがしゃべる内容も、アバター化する本人のこれまでの発言を生成AIに学習させて質問に合わせて生成可能にすることで、インタラクティブな会話を実現できるようにしています。
また、XRを使ったフォークリフトの運行体験のプロトタイプですが、実際の倉庫を3Dモデルで再現し、体験者はゴーグルを着けて、物陰から人が出てくるリスクなどを体験しながらバーチャル空間で安全運行について学習することができます。
他にも、3Dプリントで作成した実際の現場の縮小モデルに衛星写真やドローンの空撮映像をプロジェクターで重ね合わせることで、現場の課題の共有、議論、理解を促進するシステムのデモなど、技術を起点にしてWow!を生む体験の創出にトライしています。
——どれも新しい技術が使われていて興味深いですね。デモを体験されたお客さまの反応はいかがですか。
玉山
あんな使い方もできるね、こういうシーンでも使えるかも、など、とても盛り上がります。今までにない新しい体験が呼び水になって、お客さまご自身のビジネスの新しいアイデアがどんどん膨らむのだと思います。
TeamQという名前は、007に登場する「Q」という縁の下の力持ち的な存在の装備開発係からとっています。Qの作った最新鋭のツールは007の前に現れた危機を排除し、任務遂行を支援します。私たちも新しい技術を使ったツールを次々と生み出して、Qのようにお客さまのミッション達成のお手伝いをしたいと思っています。
——次回は実際の仕事の進め方や、Wow!の本質などについてTeamQをさらに掘り下げていきます。
玉山 尚太朗(たまやま しょうたろう)
株式会社日立製作所 デジタルエンジニアリングビジネスユニット
デジタル事業開発統括本部 Data & Design Design Studio
Lead Creative Technologist
1996年、日立製作所入社。鉄道などの公共サービス、情報機器や医療機器などのプロフェッショナル向け製品のヒューマンインタフェースデザインを担当。2018年から、先行的なインタラクション研究に従事。2022年に、JEITA HID専門委員会の委員長として、AIとインタラクションをテーマに活動を牽引。2023年、Design Studio の Lead Creative Technologist として、デジタルサービスのUX/UIデザインやデジタルプロトタイピングをリードしている。