日立は、シリコン量子コンピュータ*1の実用化に向け、量子ビット*2を安定化できる量子ビット操作技術を開発し、量子ビットの寿命(量子情報保持時間、または量子コヒーレンス*3)を100倍以上延伸できることを確認しました。
量子コンピュータによって実用的な計算を可能にするためには、100万量子ビット以上の規模が必要とされており、量子ビットの大規模集積化や、量子ビットを効率的に制御する技術、さらに誤り訂正*4の実装が鍵になると言われています。日立が研究開発を進める「シリコン量子コンピュータ」は、量子ビットの大規模集積化に有利と期待される一方、半導体中の核スピン*5などがノイズとなり、量子ビットが不安定になりやすく、量子アルゴリズム*6や誤り訂正の実装が難しいという課題がありました。
このたび開発した技術は、量子ビットの操作に用いるマイクロ波の位相を変調することで、半導体中のノイズを一部無効化(キャンセル)し、量子ビットを安定化させ、寿命を100倍以上延伸することを可能にするものです(図1下)。本成果は、量子ビットの大規模集積化に加え、量子アルゴリズムや誤り訂正の実装に向けた大きな一歩となるものであり、今後も本研究を加速し、量子コンピュータの早期実用化をめざします。
*1 シリコン量子コンピュータ: シリコン内の電子スピンを量子ビットとして用いる方式の量子コンピュータ。
*2 量子ビット: 量子コンピュータで利用される情報の最小単位。量子力学の重ね合わせの原理を利用して、0と1が重なり合った状態を表現することが可能。
*3 量子コヒーレンス: 異なる量子状態の間の「量子重ね合わせ」の度合い。量子ビットの寿命を表す指標となる。
*4 誤り訂正: 量子計算の過程で発生する誤りを訂正する技術。一つの論理量子ビットを複数の量子ビットで表現し(冗長化)、その冗長量子ビットを利用して誤りを検出・推定する。
*5 核スピン: 原子核が持つスピン。電子スピンを量子ビットとして用いる場合、核スピンが相互作用して量子ビットの不安定化の原因となる。
*6 量子アルゴリズム: 量子コンピュータ特有の計算アルゴリズム。通常のコンピュータでは実用的な時間で解くことのできない問題を解くことができるとされる。