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「DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~」 第17回は、前回に続き、平鍋氏が代表を務める株式会社永和システムマネジメント(以下ESM)が開発に携わったKDDIアジャイル開発センター株式会社(以下KAG)との事例を通して、平鍋氏とWebサービスを開発されているESM 小林洋平氏/南部史緒里氏に、現在のプロジェクトの状況と仕事の面白さについてお話を伺いました。

「第14回:アジャイル開発の実践例:株式会社 北國銀行 その1」はこちら>
「第15回:アジャイル開発の実践例株式会社 北國銀行 その2」はこちら>
「第16回:アジャイル開発の実践例:KDDIアジャイル開発センター株式会社 その1」はこちら>

思いを共有し、形にする

━━━ KAGのプロダクトオーナーのワ―ケーションに対するビジョン、それはどうやってチームで共有し、Webサービスという形にされていったのですか。

小林
最初はこのサービスのイメージはまったくの白紙でした。おそらくチーム全員がそうで、プロダクトオーナーであるKAGの小板橋さんの頭に中にあるビジョンを理解するために、何度も議論をしました。話をしていくうちに、その熱が乗り移ってくるのか、少しずつサービスやサイトの断片が想像できるようになってきまして、気がつくと自分でも熱く語るようになっていました。そして、参考になるサイトを見ながら「このサイトにあるこれはぜひやりたい」というように具体的な話ができるようになり、それを積み重ねていくうちにみんなが共通の画を描けるようになっていった。そんな感じでした。

南部
プロダクトオーナーのビジョンが理解できたら、次は実際にサービスを提供するためのWebサイトを作ることになります。プロダクトオーナーもエンジニアなので、サービスデザインに関しては専門家ではありません。ですからそこは、マーケティング担当の方が入ってどういうサービスならユーザーに響くのかを考え、デザイナーがWebサイトのデザインに落とし込んで、私たちエンジニアが動くように形にする。そんな役割分担でチームが動いていくのですが、その時にプロダクトオーナーのビジョンを全員で共有できていること、そしてマーケティングやデザインというフィルターを通すことが、このサービスの方向性を決めるカギになりました。

小林
チームにデザイナーがいるということは、デザインをするための設計やユーザーが見たときの受け取り方など、エンジニアとは異なる視点があるということです。今回はデザイナーの都村さんが、「ユーザー体験の作り方」というご自身の知見を積極的に共有してくれました。「せっかく揃えたデータが、この見せ方では伝わらないのでこうしたらどうですか」というように、みんなが納得できる形でデザインを構築してもらえたことは、すごくありがたかったです。

南部
デザイナーが入る前は全員がエンジニアなので、画面の構成もワイヤーフレームを自分たちで作っていました。しかし1カ月ほど後で都村さんにデザイナーとして入っていただいて、ワイヤーフレームを修正したり、デザインのアイデアをいただく中で、みんなのマインドがちょっとずつプログラミングからデザイン視点に変わっていったのです。私たちエンジニアは、設計がきれいとか、データが煩雑になっていないかといったエンジニア視点から逃れられないところがありますが、デザイナーはユーザーから見てどうか、サービスとしてあるべき姿になっているのかをつねに考えます。Webサービスではそれが何より重要ですから、私たちも自然にそちらの考え方にシフトできたのは、都村さんのおかげだと思っています。

平鍋
デザインというのはみんなの目に見えるので、それが形になった時に思いや熱量が共通のビジョンとして現れるのです。開発者の都合や思い込みではなく、誰に使ってもらいたいか、その人はどんな暮らし方をしてきた人なのか、といったようにユーザーに思いをはせて、それがデザインとして表現されたときにチームがひとつになる、ということがよくあります。デザインやロゴ、キャッチコピー、タグラインなど、本当に重要です。

画像: 思いを共有し、形にする

南部
私の前職だったウォーターフォールのプロジェクトでは、デザイナーから「ユーザーにとって使いやすいのはこういうものだと思います」という提案があっても、「工数がかかる」とか「今のAPIだと作れない」といった技術的な制約が優先され、実装しやすいようにユーザーインターフェースが作り変えられてしまうことがよくありました。

このプロジェクトでは、デザイナーの意見はできる限り尊重して、今の状態でできないのであれば、時間がかかっても裏側の仕組みをできるように変えていく。それが徹底していると思います。

答えはユーザーの中にある

━━━ 現在このサービスは、どういった状況にあるのですか。

平鍋
このWebサービスはまだサービスインをしておらず、仮説検証の真っただ中です。果たしてワ―ケーションというものに本当にユーザーがいるのか、マーケットはあるのかを探っているフェーズにあります。今一番気にしなければいけないのは、誰がどんな時どんな満足を得られるサービスにするかです。データの設計がどうだとかいうことよりも、このサービスがターゲットに刺さるかどうか。それをチーム全員が意識しながら検証を進めているところです。

画像: ワ―ケーション検索サービス『タビトシゴト』サイト

ワ―ケーション検索サービス『タビトシゴト』サイト

小林
具体的には2023年2月に実証実験を行うために『タビトシゴト』のサイトをリリースしました。リリース当初は機能の多くは“開発中”になっていましたが、多くのユーザーに実際に利用してもらい、SNSなどで直接意見をいただきながら開発を進めました。そのあとも、定期的に新しい機能を追加し、ユーザーに触っていただいてその反応を見ながら必要な機能や追加すべき機能、不要な機能を整理しながらサイト内のサービスを充実させている段階です。

━━━ お二人はこの新しいWebサービスをアジャイルで開発される時、どこに仕事のやりがいや面白さを感じていますか?

小林
それは、毎週ユーザーの反応がダイレクトに返ってくることです。以前のウォーターフォールの世界では、自分が作ったモノへのフィードバックが返ってくるまでが長くて、何が良くて何が良くなかったのかわからないまま開発するしかありませんでした。

今は毎週フィードバックがもらえて、自分がやっていることに対する手ごたえがあります。そしてそれを生かしながら次に進むことができますし、機能が充実していくことで『タビトシゴト』というWebサービスが日々成長している実感を持つことができる。そこがアジャイル開発や「スクラム」の面白さだと思います。

南部
今回はじめてアジャイル開発に携わらせていただいて、私のように主に実装を担当するエンジニアでもすべての意思決定に関われるということがとても新鮮です。以前のウォーターフォールの仕事では上流でいろいろなことが決まっていて、要件定義も決まっていますから、エンジニアはもう実装する以外の選択肢はありません。今の仕事はプランニングのところから自分の意見を自由に言えますし、それを形にするのも自分なので、一貫して関われるところがすごく面白いです。

「第18回:アジャイル開発の実践例:ANAシステムズ株式会社 その1」はこちら>

画像1: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第17回】アジャイル開発の実践例:KDDIアジャイル開発センター株式会社 その2

平鍋 健児(ひらなべ けんじ)

株式会社 永和システムマネジメント 代表取締役社長、株式会社チェンジビジョン 代表取締役CTO、Scrum Inc.Japan 取締役。1989年東京大学工学部卒業後、UMLエディタastah*の開発などを経て、現在は、アジャイル開発の場、Agile Studio にて顧客と共創の環境づくりを実践する経営者。 初代アジャイルジャパン実行委員長、著書『アジャイル開発とスクラム 第2版』(野中郁次郎、及部敬雄と共著) 他に翻訳書多数。

画像2: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第17回】アジャイル開発の実践例:KDDIアジャイル開発センター株式会社 その2

『アジャイル開発とスクラム 第2版』

著:平鍋健児 野中郁次郎 及部敬雄
発行:翔泳社(2021年)

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