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「DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~」 第16回は、平鍋氏が代表を務める株式会社永和システムマネジメント(以下ESM)が開発に携わったKDDIアジャイル開発センター株式会社(以下KAG)との事例を通して、リアルなアジャイル開発の現場を紹介します。平鍋氏とWebサービスを開発されているESM 小林洋平氏/南部史緒里氏に、プロジェクトの概要と「スクラム」の進め方についてお話を伺いました。

「第13回:ゾンビスクラムにならないために」はこちら>
「第14回:アジャイル開発の実践例:株式会社 北國銀行 その1」はこちら>
「第15回:アジャイル開発の実践例株式会社 北國銀行 その2」はこちら>

KAGとのWebサービス開発

━━━ はじめに、今取り組まれているKAGとのWebサービス開発の概要について教えてください。

平鍋
KDDI株式会社は、2022年にDXに特化したKDDI Digital Divergence Holdings株式会社を設立しました。そのタイミングで、DXを推進するアジャイル開発に特化したKAGもグループ会社として設立され、KDDIの仕事だけでなく外部のソフトウェア開発も行うようになりました。元々はKDDIのひとつの開発部門だった組織が独立して、数多くのプロジェクトをアジャイルで推進しています。その中のひとつとして、KAGオリジナルの新しいサービスを作るというプロジェクトが動き出しまして、それが小林と南部が入って現在開発中の『タビトシゴト』というWebサービスです。

小林
『タビトシゴト』がプロジェクトとして動き出したのは2022年の11月ですが、私たちがKAGにエンジニアとして呼ばれたのは10月になります。KAGでは何かの案件がはじまる前に、事前にチームを作っておき、案件が動き出した時にスムーズに開発をスタートさせる「スターターズチーム」という制度があります。最初はこのスターターズチームにお声がけいただき、私と南部が参加しました。

南部
本当に何をするのかもわからないまま、スターターズチームに呼ばれて参加しました。そのチームの中で、ワ―ケーション(※)に関するサービスをやりたいという強い思いを持っていたのは、KAGの小板橋さんです。本当に旅とワーケーションが大好きな方で、その思いを実現するために彼がプロダクトオーナーになることで『タビトシゴト』はスタートしました。

※ ワ―ケーション:普段の職場や自宅とは異なる場所で仕事をしつつ、休暇を楽しむワークスタイル。

画像1: KAGとのWebサービス開発

━━━ スタートした時は、何名のどんな構成のチームだったのですか。

小林
プロダクトオーナー、スクラムマスター、マーケティング担当、そしてエンジニアは私たち2人という5人のチームでスタートしました。その後1~2カ月たったタイミングでデザイナーが入ってこられました。

KAGも私たちもアジャイル開発や「スクラム」は良くわかっていますので、チーム全員で働き方のルールを決める「ワーキングアグリーメント」づくりからスタートしました。1週間のスプリントで、朝会、プランニングやふりかえりなどのスクラムイベントはいつどうやってやるのか、といったことをすり合わせていきました。

画像2: KAGとのWebサービス開発

1スプリント1週間の具体的な組み立て

━━━ 具体例として、1スプリント1週間をどういった組み立てで回していくのかを教えてください。

画像: 1スプリント(1週間)のイベントスケジュール

1スプリント(1週間)のイベントスケジュール

小林
まず、毎朝やっているのが朝会です。基本的にコミュニケーションはオンラインですから、前日やったことと今日やることの確認と共有、そしてもし今困っていることがあればそこで話し合います。もし時間がかかりそうな時には、また別に時間をとって結論を出すようにしています。

平鍋
このプロジェクトは東京と福井のメンバーから構成され,フルリモートで進められています。物理的に離れて仕事をしている場合には、1日1回顔を合わせて話しをすることが大切です。複数の開発者が作ったプログラムが統合されていない状態では「ソフトウェア」が機能しないように、「チーム」も毎朝統合が必要なのです。

南部
私たちのスプリントは木曜日に始まります。木曜日の午前中は朝会の後に、この1週間のスプリントでどの機能を開発するのかというプランニングを全員で行います。今週はこの機能を作りましょうということが決まると、その機能が具体的にどういう状態になればいいのかという基準を設定します。1週間でめざすゴールを全員で確認する、それがプランニングです。

木曜日の午後からはそのスプリントのタスクを消化する開発活動になります。そして金曜日はバックログリファインメント、つまり開発するバックログの優先順位を見直すという会議を全員参加でやっています。そのとき対応しているバックログの内容を確認し、優先順位を変える必要があれば変更する場合もありますが、前日にプランニングをしていますので特に問題がなければ次のスプリントで取り組むバックログの内容を確認します。それをだいたい1時間くらいかけてやっています。

画像: バックログのリスト

バックログのリスト

月曜日と火曜日は、それぞれのタスクを消化していく時間になっていまして、何か問題があればSlackで共有したりしています。そして水曜日には、プランニングで設定した機能のレビューと、スプリントのふりかえりを全員で行います。

小林
水曜日のレビューでは、開発チームのメンバーではありませんがワーケーションに詳しい方もレビューに参加してもらい、スプリントで開発したものを実際に動かしていただいて確認します。またふりかえりでは、KPTAというフレームワークを使っています。Keep(継続すべきこと)、Problem(改善すべきこと)、Try(挑戦したいこと)、Action(行動すること)を順に全員で出してスプリントをふりかえりますが、このチームでは最後に「幸福度」というものを各自で投票します。今の自分の状況を、5段階で正直に発表してチームのメンバーと共有するのですが、これは仕事だけではなく、子どもが風邪をひいてあまり眠れていないといったことも含めた今の自分のコンディションをアップします。レビューは、1時間の予定がいつも2時間を超えるほど盛り上がります。

画像: チームの幸福度の投票画面

チームの幸福度の投票画面

平鍋
スクラムは、人とチームを大切にします。働き方が見直される時代、チームメンバーのモチベーションがしっかり保てていて、働きやすい環境であることは会社やチームにとって非常に重要です。幸福度投票は、KAGがこのような社員一人ひとりのコンディションに気を配られていること、チームとそこに関わる人々を大切にしていることがよくわかる活動だと思います。

「第17回:アジャイル開発の実践例:KDDIアジャイル開発センター株式会社 その2」はこちら>

画像1: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第16回】アジャイル開発の実践例:KDDIアジャイル開発センター株式会社 その1

平鍋 健児(ひらなべ けんじ)

株式会社 永和システムマネジメント 代表取締役社長、株式会社チェンジビジョン 代表取締役CTO、Scrum Inc.Japan 取締役。1989年東京大学工学部卒業後、UMLエディタastah*の開発などを経て、現在は、アジャイル開発の場、Agile Studio にて顧客と共創の環境づくりを実践する経営者。 初代アジャイルジャパン実行委員長、著書『アジャイル開発とスクラム 第2版』(野中郁次郎、及部敬雄と共著) 他に翻訳書多数。

画像2: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第16回】アジャイル開発の実践例:KDDIアジャイル開発センター株式会社 その1

『アジャイル開発とスクラム 第2版』

著:平鍋健児 野中郁次郎 及部敬雄
発行:翔泳社(2021年)

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