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かつて経済産業省でデジタル化政策を牽引し、2021年にベストセラー『DXの思考法 日本経済復活への最強戦略』を著した西山圭太氏による新連載がスタート。第1回では、そもそも「デジタル化」とは何を意味するのか、経済産業省時代の西山氏ご自身の体験をもとに解説していただきます。

DXに取り組む。それは自分自身の課題でもあった

自分ごととしてDXに取り組まなくてはいけないという課題に、読者のみなさんが直面していると思います。実はわたし自身も、そうでした。

わたしは1985年に現在の経済産業省に入省しました。いろいろな部署を経験したのち、2018年に商務情報政策局長になりました。担当分野はデジタル化政策なので、経産省のなかでも高度な専門性が求められる部署です。ところがわたしの場合、ITに関する仕事の経験がないまま、いきなり局長に任命されてしまいました(※1)。

※1 2020年夏に経済産業省を退官。現在は主に株式会社経営共創基盤にてシニア・エグゼクティブ・フェローを務めている。

そこでわたしは、書店に足を運びました。目の前の具体的な仕事上の課題はもちろんあり、局内の人が説明してくれるのですが、それとは別に「デジタル化とは何をすることなのか」という、いわば「そもそも論」を直感的に理解しておかないと、さまざまな課題が現れたときに自分なりに解釈して判断することができないのではないかと感じたからです。書店には、ほかのどのジャンルよりも多いのではないかと思うくらい、デジタルやITに関するさまざまな本が並んでいました。そのなかで自分なりに理解するうえで役立ちそうな書籍を読み、また、インターネット上で検索できる情報のうち英語で書かれたものを中心に見てみました。

画像: DXに取り組む。それは自分自身の課題でもあった

『イノベーターズ』で、テクノロジーの進化を構造的に捉える。

デジタル化の理解に最初に役立ったのが『イノベーターズ』(講談社)でした。アメリカのジャーナリスト、ウォルター・アイザックソン氏によって書かれた、デジタル革命の歴史です。

この本には、19世紀の初めにエイダ・ラブレス(※2)という女性が現在のコンピュータのしくみを着想してからGoogleが誕生するまでの200年弱が描かれていて、非常にわかりやすく感じました。過去から順を追ってテクノロジーの歴史を見ていくと、あるテクノロジーがもともとあり、そこにこんな課題があったので、新たに別のテクノロジーが生まれた、という必然性が見えてくるからです。この本を読むことで、デジタル領域におけるテクノロジーの進化の歩みを構造的に捉えることができました。

※2 19世紀前半を生きたイギリスの貴族。科学や数学に強い関心を抱き、イギリス人数学者のチャールズ・バベッジとともに、現在のコンピュータの基本的な考え方をまとめた。

デジタル化を一言で表すと?

諸説あるのですが、人類史上初と言われているコンピュータ「ENIAC(エニアック※3)」が開発された1945年が、デジタル化のスタートラインと言われています。そこから70年以上経ち、昨今ではAIや5G、ブロックチェーンといったテクノロジーが生まれていますが、少なくとも量子コンピュータ(※4)が誕生する以前のコンピュータは、ご存じのように「0・1」のバイナリーなロジックですべてのことを処理してきました。それは1945年からずっと変わっていません。

※3 Electronic Numerical Integrator and Computer。アメリカで開発された。
※4 量子力学的な現象を用いて計算することで、従来のコンピュータの約1億倍と言われる速度で情報を処理できるコンピュータ。

では、デジタル化とは何か。それをどう捉えれば、これまでに生まれてきたさまざまなテクノロジーを俯瞰できて、今最先端で起こっていることも理解できるのか、わたしなりに気がつきました。

当然かもしれませんが、出発点は、人間が解きたい課題をコンピュータで解くこと。それがデジタル化なのだと。

ただ、コンピュータというものは、最終的には「0」か「1」で指示されないと何もできません。しかし、人間が抱える課題を「0・1」で表記したプログラムをいちいち翻訳するのは、大変面倒です。人間とコンピュータの間にある距離をいかに埋めていくか。一言で言えば、それが70年以上に及ぶデジタル化の歴史です。そうまとめるといろいろなことが見えてくる。次回はそれを少しひも解いていこうと思います。

「第2回:人間とコンピュータの間を埋めてきた『レイヤー構造』。」はこちら>

画像: 西山圭太『DXの思考法』~楽しく働くヒントの見つけ方~
【第1回】「デジタル化」とは、何をすることか。

西山圭太(にしやま けいた)

東京大学未来ビジョン研究センター 客員教授
株式会社経営共創基盤 シニア・エグゼクティブ・フェロー

1963年東京都生まれ。1985年東京大学法学部卒業後、通商産業省入省。1992年オックスフォード大学哲学・政治学・経済学コース修了。株式会社産業革新機構専務執行役員、東京電力経営財務調査タスクフォース事務局長、経済産業省大臣官房審議官(経済産業政策局担当)、東京電力ホールディングス株式会社取締役、経済産業省商務情報政策局長などを歴任。日本の経済・産業システムの第一線で活躍したのち、2020年夏に退官。著書に『DXの思考法』(文藝春秋)。

DXの思考法

『DXの思考法 日本経済復活への最強戦略』

著:西山圭太
解説:冨山和彦
発行:文藝春秋(2021年)

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