パーソナルデータ流通のリスクとコストを同時に低減
クラウドサービス利用が増加の一途をたどるなか、購買履歴などのパーソナルデータを分析したマーケティング情報の提供や、複数の医療機関による診療情報の共有といった個人情報の利活用に対するニーズも高まっています。しかし、クラウド上での個人情報の取り扱いには、情報漏えいや改ざんといった管理上のリスクが伴います。また最近では、個人情報を保管するデータセンターが国外にあったことや、海外からの不適切なアクセスに関する問題が社会の関心を集めました。
今後、パーソナルデータの利活用・共有などによる新たな価値創出をさらに促進していくためには、安心・安全な利用環境の構築が不可欠です。一方で、データ利活用には改正個人情報保護法などの法令やガイドラインを順守しながら情報漏えいのリスクを抑えたデータ収集・管理が求められており、そのためのコストや労力の増大も1つの障壁となっています。
こうした課題への対応として、日立は個人の同意に基づいたデータ利活用をより安心・安全に実現する「個人情報管理基盤サービス」を提供開始しました。データ利活用に取り組むさまざまな事業者に向けた本サービスは、独自技術を駆使して開発した日立の秘匿情報管理サービス「匿名バンク」と、新たに開発した、データの提供先や利用目的などの変更に応じて個人からの同意を動的に管理できる各種機能を組み合わせて提供します。クラウド上で情報を秘匿化・匿名化し、万一情報漏えいなどの事故が発生した場合でも事業者のリスクを軽減し、パーソナルデータのより安全で効率的な利活用を実現します(図1)。
セキュアな「匿名バンク」とフレキシブルな同意管理機能
個人情報管理基盤サービスの土台となる匿名バンクは、取り扱いに特に配慮が必要とされるパーソナルデータを、秘匿化・匿名化しクラウド上でより安全に管理するための秘匿情報管理サービスです。氏名や住所といった個人を特定できる情報は日立独自の検索可能暗号化技術で乱数化して保管し、購入履歴や検査結果といった個人を特定できないそのほかの情報は匿名化して管理します。また、暗号化・復号に必要な鍵はデータ保有者とデータ利用者だけが持つため、データセンターおよびネットワーク上で復号されることがありません。こうして企業・組織間でデータを秘匿化したまま授受できるため、情報漏えいリスクを低減できます。
さらに個人情報管理基盤サービスでは、個人が自身のパーソナルデータの提供先や提供するデータの項目などを動的に同意設定できる「共通ポータル」や、その設定に基づいて利用者へのデータ提供を可能とする「同意管理機能」を提供。これによりデータ利活用における透明性が高まり、パーソナルデータのよりセキュアな管理や多目的利用を支援します。また、提供先や項目、利用目的ごとにパーソナルデータ提供の可否を個人が設定できる柔軟なデータ利活用を実現します。
パーソナルデータ活用の可能性を広げるオープンAPI
個人情報管理基盤サービスのもう1つの特長がオープンAPIです。これにより、さまざまなアプリケーションを通じてより安全にパーソナルデータを活用したサービスを提供可能です。また、業務システムの情報を本サービスに集約することで業務の効率化が可能となり、従業員や職員が本来の業務に注力できるようになります。
このオープンAPIを介して、例えば「個人向けアプリケーションとデータ連携し、個人のニーズにマッチした新サービスを提供する」、あるいは「地域特性に合ったアプリケーションとのデータ連携によって地域に価値を還元するプラットフォームを構築する」といったサービスの活用も可能です。もちろん、外部システムとの間でやりとりするデータは、匿名バンクによってより安心・安全に管理されるほか、今後はユーザーのニーズに合わせてオープンAPIの機能をさらに拡充していく予定です(図2)。
実績を重ねた確かなデータ利活用でイノベーション創出へ
2009年に個人情報の管理・活用を支援する匿名バンクの提供を開始して以来、日立は高度なセキュリティと実用性を兼ね備えたパーソナルデータの利活用をサポートしてきました。10年以上にわたって蓄積してきた個人情報管理に関する豊富な技術や知見を基に新たに開発した個人情報管理基盤サービスは、2020年6月に公布された改正個人情報保護法で新設された仮名加工情報にも対応しています。
個人が現金を銀行に預けて運用を任せるように、パーソナルデータを預け、運用・利活用を促進する――今、そんな「情報銀行」の実現に向けた取り組みが官民連携で進んでいます。その試みはまだ道半ばですが、こうした新たな情報インフラの基盤を整備していくうえで、セキュアな情報流通を支援する本サービスが果たせる役割は小さくありません。個人情報管理基盤サービスのようにより安心・安全で効率的なデータ利活用を実現する取り組みをさらに推進しながら、これからも日立は情報サービスの提供やイノベーションの創出に貢献していきます。
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